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ぽんぽこ憤慨する狸らの前でとろとろおいしいそば湯を頂戴して、意地悪お兄さんはワイワイガヤガヤな蕎麦屋を一人後にしました。 「どこもかしこも人やらあやかしやらでクソ騒がしいな」 冬用作務衣に厚手の褞袍(どてら)を着込んだ着膨れ意地悪お兄さん、番傘片手にぶらぶらします。 川を跨ぐ橋を渡れば眼下にはゆったり流れる雪見船。 しっぽり風情が満載です。 「縞政、今日はありがとうなっ」 うら若そうな青年の綾太郎(あやたろう)と、顔の左半分を長い髪で隠した、今は人の姿をしている山犬の長・縞政(しままさ)が雪見船デートの真っ最中でした。 「縞政と一緒に人里に下りることができて、とても嬉しいっ、楽しいっ」 「そうか」 「縞政はっ? 楽しいっ?」 山犬夫の縞政ははしゃぐ連れ合いから不意に視線を逸らして返事をします。 「そなたが楽しんでくれさえすれば、手前は、それでよい」 雪見船の片隅でほのぼの赤面し合うふたり……。 「ちぇっ。どいつもこいつも」 一方、雪見船を見下ろしながら橋の欄干の上で小さな雪だるまをいくつもこさえた意地悪お兄さん、番傘を握り直してまた歩き出しました。 雪が積もって寒さもひとしお、それなのに通りにはいつにもまして人出があります。 家族連れだったり、友達同士だったり、カップルだったり……。 「げ」 向かい側からやってくるカップルの過剰ないちゃつきぶりに意地悪お兄さんはしかめっ面、すぐさま顔を背けました。 長身の男は手ぬぐいを雑に被っています。 包帯だらけのナリで近づいちゃいけないオーラが半端ないです。 連れは小柄、袖頭巾で頭を覆い隠して顔は見えません、でも着飾った身なりからしてやんごとなき生まれであるのは確かです。 異色のふたりは周りの関心を引いていましたが、当人たちは我関せず、ベタベタくっつき合って歩いていました。 歩行と視界の邪魔でしかねぇ……。 露骨に顔を背けたまま異色のふたりと擦れ違った意地悪お兄さん。 「コンコン」 突拍子もなく聞こえてきた鳴き真似。 慌てて振り返れば、手ぬぐいを頭に引っ掛けた百足の這虫(はむし)がニヤニヤしておりました。 「偏食狐のお嫁サン、ご無沙汰コンコン」 黒く塗られた爪の先で狐の手真似をしてみせた、大食共食い嫌われギザ歯の這虫。 意地悪お兄さんは「どいつもこいつもこの寒ぃ中お盛んときてやがる」とのっけから愚痴ります。 「見せつけちゃって悪いねぇ」 「フン、お前の相手をするなんて相当のスキモンだな、どれどれ、一体どんなツラして、っ、ぶはぁっっっ!!」 小さな頭を覆っていた袖頭巾をぺろんと捲った意地悪お兄さんはぶったまげました。 「ひ、ひめーー……」 這虫の隣にいた、赤い鼻緒の黒塗り高下駄に花柄の着物を着た、代々、物の怪らを束ねる一族の当主の緋目乃は。 鮮血の如き紅が引かれた唇の前にす……っと人差し指を。 「う」 「じゃあ、行こうかねぇ、それじゃあねぇ、狐のお嫁サン」 這虫のエスコートに緋目乃はウキウキルンルン、ふたりは近場の出合茶屋へと入っていきました。 驚きの余り立ち尽くす意地悪お兄さんの番傘から、降り積もった雪がどさどさ落ちていきました……。 雪やこんこ、あやかしぞろぞろ。 こんな雪の日は物の怪どもも浮き足立って、物見遊山に人に紛れては下界での戯れに興じるようです。 「迎えにきたよ」 ああ、またあやかしが人に紛れてやってきました。 それはそれは美しい白狐が。

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