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九と意地悪お兄さんの間に生まれ落ちたこども。 灰色髪に灰色狐耳の九太(きゅうた)はぱぁっと顔を輝かせます。 「黄金(こがね)だ!!」 雪山でひとり遊び回っていた九太に声をかけたのは大陸で名の知れている妖虎三兄弟の長男・黄金でした。 「おいで」 細身でロング丈の冬用カンフー服を着た黄金が両腕を広げれば、九太は灰色尻尾を限界まで膨らませます。 思いっきりジャンプしてその懐に飛び込みました。 「黄金っっ」 どこからどう見ても三歳児である九太はあたたかな胸に頬擦りします。 「キューーーーー!」 胸の内まで潜りたがるように一心不乱に頭を押しつけて嬉しそうに鳴く九太に、黄金は、もうメロメロです。 「こんなに冷たくなって、よしよし」 ふたりが仲良しこよしであることは一目瞭然でした。 「おれねっ、雪っ、大好きっ」 「うんうん、うんうん」 黄金も灰色狐耳に好きなだけ頬擦りします。 寒々しい雪景色に、アシンメトリー風の極端な斜め前下がり髪をした目映いパツキンがよく映えていました。 「雪って、白い!」 「うん、真白だ」 「おれの灰色毛もっ、雪がふるとねっ、白っぽくなる!」 九太を大事そうに抱っこして辺りをぐるぐる歩き回っていた黄金は、ぴたりと立ち止まります。 「真っ白いみんなといっしょになれる!」 今現在、九太は家族の中でひとりだけ灰色毛でした。 「九太はみんなと同じ色の毛になりたいのか?」 九太は人の姿で生まれてきました。 生まれてしばらくしてから狐耳や尻尾が生えてきました。 「おれだけ仲間はずれ、さみしいから、なりたい」 かつての意地悪お兄さんと同じで狐耳や尻尾を自力で仕舞うことができません。 なので人里に下りられません。 そして狐の姿に変わることもありませんでした。 「おれは好きだ」 黄金は九太を覗き込みました。 九太はつぶらな瞳をパチパチさせます。 「九太のこの灰色の耳も、尻尾も、大好きだよ」 底抜けに自己肯定感を高めてくれる黄金の真っ直ぐな言葉に九太は大喜びします、腕の中で一回転したり肩までよじ登ったり、とにかく溢れてくる喜びを全身でもって表現しました。 「おれも黄金大好き!!」 黄金はやたら鋭い八重歯を覗かせて飛び切りの笑顔を浮かべました。 「おっきな金色のおめめも、太くてかっこいいまゆげも、きらきらしたかみの毛も、大好き!!」 「じゃあ、おれと九太は大好き同士だ」 「うんっ」 仲睦まじげにじゃれ合う九太と黄金。 程なくして黄金は勇ましい巨大虎の姿になり、ちっちゃな九太を囲うようにして雪の中で丸まりました。 九太は怖がるどころか、もふもふの腹に抱きついて匂いまでクンクン嗅ぎます。 「黄金はね、きれいなしましま、おれたちとはちがうの、耳もさんかくじゃない」 お耳をそっと触ります。 「しっぽもちがう」 長くて雄々しい尻尾もそっと触ります。 ちゃんと力加減して耳や尻尾に触れてくる九太を黄金はかぷかぷ甘噛みしました。 「キューーーーー!!」 これまた怖がるどころか、大きな大きなお口に自分から頭をずぼっと突っ込んで興味津々に牙を観察する九太、傍目には危機一髪でしかない衝撃的光景です。 そこへ。 「虎と遊んだらいけないよ、兄さん」 「アニキのばーか、バリバリ食われても知んないぞ」

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