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大胆に頭を突っ込んで牙の数を数えていた九太は黄金のお口から顔を出しました。 山の中へ自分を探しにやってきた弟狐に目をやります。 「九朗(くろう)九彦(くひこ)」 兄を探しにやってきた九朗と九彦。 おおよそ二十年前、意地悪お兄さんは三つ子を生みました。 生まれてきたとき、兄の九太は人の姿でしたが、九朗と九彦は狐の姿でした。 九太は母である意地悪お兄さんの乳で育ちました。 嫁の負担を軽くしたいと思い、父である九は、自身の血を九朗と九彦に与えて育てました。 「おうちに帰ろう、兄さん」 「それとも虎のお腹に仕舞われた方がいーい?」 弟狐のふたりはすぐに擬態(ばけがく)を習得して人の姿をとれるようになり、狐耳も尻尾も自由に出し入れ可能になりました。 まるで双子のような九朗と九彦。 九にそっくりです。 三歳児の外見をした兄の九太よりも年上に見えます、見た目的には十二歳くらいの青少年といったところでしょうか。 上下真っ白な袴姿でスラリとした手足。 雪色の髪は女子ウケすること間違いないマッシュショート。 冴え冴えとした切れ長な双眸は黄金を真っ直ぐに睨んでいました。 「兄さんは代わりにされているんだよ」 聡明そうな次男・九朗の言葉に九太はきょとんとします。 「その虎はね、ボクたちが生まれてくる前、ボクたちのお母さんのことをそれはそれは好いていたそうだよ」 「うん、しってる」 「だからね、兄さんは代わりにされているんだよ、可哀想に」 「かわり? かわいそう?」 母親である意地悪お兄さんの代わりにされていると言われ、イマイチ理解できずに九太はきょとんとし続けます。 「アニキのばーーーーーーか」 末っ子の九彦は……紛うことなき美少年フェイスは九譲りですが、性格は意地悪お兄さん寄りでした、お口の悪い意地悪こどもでした。 「いつまで虎にくっついてんだ、虎くさくなんだろーが、早くこっち来い」 短気でわがままな九彦は、自分たちの元へすぐに戻ってこない、黄金の懐に落ち着いてしまっている九太を取り戻そうとします。 「あ!」 人の姿になった黄金に九太が抱き上げられると、眉目秀麗な美少年フェイスをまっかにして地団駄を踏みました。 「アニキ返せ!!」 「兄さんを下ろしてください、返してください」 狐耳を生やして喚く九彦の後ろで、努めて冷静に九朗も訴えれば、きょとん継続中の九太を抱き直して黄金は言います。 「お前たちはいつだって九太のそばにいられるだろ。おれは違うよ。今日だって中秋の名月振りに会う」 「まんまるお月さま、いっしょ見た」 「うん。そうだ」 「おだんご食べた、おいしかった、たのしかった」 「うん。おれもすごく楽しかった」 返せと訴える弟狐の前で兄狐を平然と抱っこし続ける黄金。 「九太のお母さんのこと、好きだったよ、でも今はそれ以上に九太のことがもっともっと大好きだよ」 灰色狐耳を甘噛みされて「くすぐったい」と九太は笑います。 「このまま連れて帰ってしまおうかな」 甘スパイシーな顔をうっとり綻ばせた美男子妖虎の黄金は。 無邪気で純粋な九太に口づけました。 それも、なんと、いたいけな唇に。 「あーーーーーー!!」 九彦は目をヒン剥かせました。 九朗はこめかみに青筋をビキリと立てました。 ショックを受ける弟狐も目に入らず、黄金は腕の中でじっとしている九太に告げます。 「九太、おれとおいで」 とうとう九朗も九彦も堪忍袋の緒が切れました。 父親よりも小さめ、スレンダーなあやかし狐の姿に早変わりすると頭を低くし、今にも襲いかかりそうな剣幕で黄金を威嚇しました。 「「ギシャアアアッッ!!」」 これにびっくりしたのは九太です。 大好きな黄金が傷つけられたら、大切な弟が怒りに我を忘れてしまったら、九太は急に不安になりました。 また、とてつもなく間の悪いことに。 「また我が家に勝手に虎が上がり込んでいるね」 親ぎつねの九までやってきてしまいました……。

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