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「あーーーーもーーーー!!!!」
泣いていた九太をぎゅうぎゅうして、全力であやして、意地悪お兄さんは腹の底からため息をつきつつ言います。
「どいつもこいつも気短の聞かん坊か!!」
「どいつもこいつもって、まさか僕も含まれてる?」
殺気を払い落として尋ねてきた九を意地悪お兄さんは一瞥します。
「全員だ、全員、お前らみんな大袈裟なんだよ、九太の自由に好きなように遊ばせてやりゃあいいだろ、変な約束事なんか設けやがって、このモンペモラハラ亭主が」
雪色の狐耳を生やして褞袍を纏う母狐にひっしとしがみつく九太。
日頃から何かと一方的に怒っている意地悪お兄さんなので、その剣幕には慣れっこです、さっきのように不安になったりしませんでした。
「お前らもだぞ、九朗、九彦」
狐の姿のままでいる九朗と九彦に言い放ちます。
「ブラコン過激派やめろ!!!!」
「キューーーっっ……でも! でもさ!?」
まだ黄金への威嚇をやめていない九朗の隣で人の姿になった九彦、意地悪お兄さんに後ろからしがみついて反論します。
「そいつ!! アニキのこと持ち帰ろうとした!!」
「ぐるじッ……おい、首絞めんじゃねぇ、九彦……」
「アニキにちゅーまでした!! しかも!? 口だった!!」
「は????」
九彦はせっかくの美少年フェイスをぐしゃぐしゃに歪め、ぎゃーすか泣き喚きながら母狐に告げ口しました。
「……黄金 、お前なぁ……」
真の名で虎を呼んだ意地悪お兄さん。
あ、隣にいた九の蛾眉 がピクピク反応しています。
「哎呀 ……」
困った天然ちゃんの黄金。
ピクピクしている九、おいおい泣き喚く九彦、威嚇をやめない狐姿の九朗の前で場違いなほど朗らかに笑いました。
「いつの間にか、すっかり雪の色に染まってしまったんだね」
呆れ返っていた意地悪お兄さんはやれやれと肩を竦めます。
「いや、前の秋と変わんねぇぞ、余程九太しか眼中にねぇ……いやいや、だからって九太にちゅーするなんてどういうつもりだ」
「おれと九太は大好き同士だ。だからちゅーしてもいい」
九の長い髪が不穏に揺らめきます、九朗は今にも飛びかかりそうな様子です、九彦はぎゃん泣きします。
「ああもう、どいつもこいつも……黄金、今日は一旦帰ってくれ、血の気の多いウチの奴らが発狂しそうだ」
「九太も連れていっていい?」
「駄目に決まってンだろーが」
意地悪お兄さんに素っ気なく言われて黄金は、しょんぼり……しました。
「……コンコン……」
意地悪お兄さんの腕の中で泣きやんだ九太が、そっと、いじける虎へ手を伸ばします。
「またね、黄金、またあそぼ」
「……うん、また会いにくる」
しょんぼりしていた黄金は、精一杯慰めようとしてくれている九太に自分も手を掲げ、狐の手真似でお別れのご挨拶を。
「おれを待ってて、九太、約束だよ」
「うん」
九太も無邪気に狐の手真似でコンコンします。
愛らしい灰色ぎつねに笑顔を取り戻した黄金は、鼻先を象る指先に指先をくっつけて「ちゅっ」とさっきの接吻を再現してみせました。
純真無垢ここに極まれり、仲良しこよしな狐と虎のじゃれ合い。
辺り一面、雪景色のはずがお花畑の幻が見えたような気がして、苦笑いするしかない意地悪お兄さんなのでした。
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