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20-9
この世とあの世の繋ぎ目なる異界。
この世のものならざるものらが跋扈する世にも不思議なあやかし温泉郷。
「兄様」
「兄者!!」
長期滞在しているからくり宿へ戻ってきた黄金、弟虎の朱 と琥珀 に出迎えられました。
「ただいま……朱、琥珀……」
赤色の建具が闇夜に映えるオリエンタルな古民家風建物。
妖しげに灯るランタンがいくつも吊り下げられた石畳の中庭で妖虎兄弟は向かい合います。
「兄様、もしや向こうで狡猾老獪も甚だしい白狐めに意地悪されたのですか……?」
色香の匂い立つ麗人の如き次男・朱はどこかぼんやりしている兄を心配します。
「兄者兄者兄者兄者……!?」
ツーブロ蒼色髪で引き締まった筋肉質男前の末っ子・琥珀も駆け寄ります。
不揃いに揺らめくランタンの下。
黄金は弟ふたりに言いました。
「今日も九太が可愛くて、それはそれは可愛くて、それはもう可愛かったんだ」
空中をぷーかぷーか泳いでいた、大きな大きな赤いおばけ金魚を抱き寄せて、小さな小さな灰色ぎつねに想いを馳せます。
「可愛かったんだ……」
「ああ、兄様、今日の兄様はなんてキュートなのでしょう」
「兄者……!!!!」
この弟虎に関してはブラコン過激派ここに極まれり、でした。
「兎と花いちもんめ。狐めの上のこどもがほしいと相談しましょうか?」
「それはだめだ」
前回の反省を踏まえて黄金はきっぱり断言します。
「緋目乃はもう通さない。おれが直に相談するからいいよ」
腕の中でうっとりしていたおばけ金魚を頭上高くへ放します。
吸い込まれそうな大きな金色の目に瑞々しい恋情を湛えて、春の野のように柔らかくあたたかな眼差しを紡ぎました。
「九太はね、おれの世界を千紫万紅 、彩ってくれるんだ」
初めて会ったときから。
黄金はおくるみの中で笑っていた赤ちゃん九太に心を奪われました。
おおよそ二十年、親ぎつねの九に何とか約束をとりつけて、再会を果たす度に。
その想いはすくすくと育って妖虎の胸に無数の花を咲かせたのです。
かけがえのない灰色ぎつね。
いつかおれのお嫁においで。
「君って虎にぞんがい甘いよね」
「別に甘くねぇ、早く餅焼いてくれよ」
「まったく。狐使いが荒いね」
「……おい、誰がいつ押し倒せって言った」
おうちに帰ってくるなり、板間に押し倒された意地悪お兄さんは不機嫌そうに狐夫を睨みます。
「お前なぁ、いつチビどもが帰ってくるか」
「君と僕で作ってあげたかまくらに夢中だよ」
「ほとんど俺が作ったけどな!? テメェは一体いつになったら発情期卒業するんだよ!! 年がら年中相手してる俺の身にもなれ!!」
「やっぱりどう考えても僕には当たりが強いよね、君」
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