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第21話 唯一の慰め。
雨は益々激しさを増し、雨音に掻き消されるのを抵抗するかの様に救命車のサイレン音が街中で鳴り響いた。
車内では、救急隊員によって雛多への応急処置が施されていた。
樹季は、其れを懸命に補助していた。
程なくして、優多の目が薄っすらと開いた。
「優多!大丈夫か?!」
優多は尊の呼びかけに全く反応せず、虚ろな目で自分の手の中の指輪をぼんやりと見つめていた。
視界が見えにくく、路面も滑りやすかった為、予定よりも10分も遅れて病院に到着した。
この総合病院は樹季の父親が院長を務めている元宮総合病院の傘下にあり、有能な医療スタッフに加えて、最新の医療設備が整っている。
救急車が到着すると、既に数名の医師と看護師が病院の出入口に待機していた。
他の患者を乗せた救急車も次々と到着し、院内は一時騒然とした。
母親と雛多はストレッチャーで院内の緊急救命室に運ばれ、樹季は彼等に同行した。
優多はまだ意識が朦朧(もうろう)としており、尊は彼を抱き抱えたまま、別の診察室に入った。
医師の診断結果は
《血管迷走神経反射性失神》だった。
(強い痛みや精神的ショック、ストレスが誘因となって自律神経のバランスがくずれ、血圧低下となり脳血流が低下して一時的に意識がなくなる。)
失神後の回復は早く、意識障害は無いと告げられ、尊は胸を撫で下ろした。
優多を再び抱き上げ、緊急救命室の前に在るソファーに腰を下ろし、樹季が出て来るのを待った。
右側に座っている優多の身体を自分に寄り掛からせ、右手で彼の左手をそっと包み込んだ。
尊は、面にこそ出さなかったが、事故直後のフロアーを染めた帯びただしい血の色、悲鳴や誰かが泣き叫ぶ声、そして何より、雛多と彼等の母親の痛ましい姿を鮮明に思い出し、不安と恐怖で気が変になりそうだった。
しかし、自分が優多を支えなければ、彼はきっと壊れてしまう。。
彼の存在が唯一の慰めであり、彼を守らなければという強い想いが、尊を奮い立たせてくれていた。。
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