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第22話 切なる想い。
どのぐらいの時間が経過したのか分からなかった。
緊急救命室の扉が開き樹季がこちらに気付き、向かって来た。
「樹季。。おばさんと雛多は。。?」
尊は、樹季に問いかけている自分の声が震えているのが分かった。
優多が樹季の方に顔を向けて口を開いた。
「お母さんと雛兄は大丈夫なんでしょ?」
樹季は涙が溢れるのを必死で堪えながら、優多の前にしゃがみ込んで優多の右手を握った。
そして優多の目を見つめながら話し始めた。
「優多。おばさんは事故時の強い衝撃で、頭と心臓に損傷を受けて即死だった。。雛。。雛多は、おばさんが庇ってくれた頭部は無事だったが、腹腔内の出血が酷くて他の臓器も損傷しているんだ。。」
樹季は震える声を抑えながら再び口を開いた。
「雛多は意識を取り戻したが、余り時間が残されていない。雛多が俺達を呼んでる。優多。。3人で彼を見送ってあげよう。」
「。。。な。に?ねえ、尊兄、樹季はさっきから何を言っているの?嫌だ!!俺は行かない!!」
「優多。。樹季の言葉聞いたろ?雛多が俺達を待ってる。。」
「嫌だ!嫌だぁー!!」
優多は激しく首を横に振り、その場から立ち去ろうとした。
尊は優多を自分の元へ引き寄せると、彼を強く抱き締めた。
「優多。優多。俺がいるから。。」
尊と樹季は、全身から力が抜け、虚ろな表情をした優多を支えながら、緊急救命室の扉を開けた。
彼等の視線の先には、ベッドに仰向けになっている雛多の姿が在った。
3人は重い足取りを引きずりながら、彼の傍に有る椅子に腰を掛けた。
彼等は雛多に笑顔を見せようと無理に口角を上げたが、涙が止めどなく溢れ、歪んだ表情になっていた。
雛多が3人に気付き笑顔を見せた。それはとても弱々しかったが、愛情に満ちた表情だった。
「尊。。樹季。。」
2人が先に名前を呼ばれ、雛多の手を握った。
雛多は、か細い声がしっかりとした口調で彼等に話し掛けた。
「2人に優多を任せても良いかな?俺はもう守ってやれそうもないから。。これからは、俺の代わりに優多を見守っていってくれないか?優多にはいつも笑顔でいて欲しいんだ。。アイツには今日の事を乗り越えて幸せになって欲しい。」
雛多が2人の手を握り返した。
その手に込められた雛多の切なる想いが、2人に伝わるには充分過ぎる程の強さだった。
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