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第33話 尊と父。

「樹季。。お前良い奴だな。」 尊が照れ臭そうに、呟いた。 「ふんっ。俺は常に良い奴だ!こーゆう時にだけ、取って付けたみたいに言うなよ。」 「ふっ。そうゆう事にしておいてやるよ。」 「おじさん達リビングに居たぞ。俺も同席してやるから、行こうぜ。」 樹季が尊の肩を抱いた。 尊は眉をひそめ、樹季の手を払った。 「お前に肩を抱かれるのは、何かキモい。」 「なんだと!俺様にキモいなんて暴言を吐くのはお前ぐらいだぞ。言っておくが、俺達の中で、俺が1番年上なんだぞ。俺はお前達の兄貴みたいなものだ。お前じゃなくて、お兄様って呼べ!」 「はい。はい。お兄様。」 「はい。は1回!」 「お前、たまに、母親みたいな言い方するよな。」 「又、お前って言ったな!」 2人は、不毛な言い争いを続けながら、階段を降りていった。 リビングのソファーで寛いでいた両親は、2人に気付き声を掛けた。 「樹季。家に来るのは久しぶりだな。其処に掛けてくれ。」 尊の父 徳人(のりひと)は、2人を自分達の向かい側に座る様に促した。 ソファーに腰を掛けて間なしに尊が口を開いた。 「父さん、母さん、お2人にお願いしたい事があります。」 「どうしたんだ?お前が私に頼み事なんて初めてだな?言ってみなさい。」 「一昨日、学校の近くに家を購入しました。そこで優多と一緒に暮らしたいんです。」 尊の言葉を聞いても、まるで既に知っていたかの様に、彼の表情に変化は無かった。 「しかし、彼には父親がいる。何より、まだ学校に通える状態じゃないだろ?」 「はい。ですから暫くの間、俺も学校を休んで優多の傍に居ようと思います。彼が落ち着きを取り戻したら、一緒に学校に通うつもりです。休んでいる間も、勉強は家できちんとやります。」 「それなら、優多を我が家に呼んで、此処で一緒に暮らした方が良いんじゃないか?お前達だけで暮らす必要があるのか?」 「優多を此処に呼ぶ事は出来ません。」 尊はきっぱりと言った。 「何故、駄目なんだ?」 「優多は大切な家族を2人も亡くしたんです。この家に来て幾ら気心の知れている人達といえども、一つの家族の中に他人の自分が居ても良いのかと居た堪れない気持ちになると思います。それは、今以上に彼に孤独を感じさせる事になります。ですから、2人で生活をさせて下さい。」 徳人は尊の話を聞きながら、腕を組み、黙ったままじっと息子の眼を見つめた。

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