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第34話 駆け引き。

徳人は、何の迷いも無く両親の元を離れ、優多と暮らす事を決意した尊を見て、寂しさを感じる一方で、優多の心情を理解し、人を思いやる気持ちを持っている息子を誇らしく感じてもいた。 暫くして、徳人は口を開いた。 「分かった。お前の好きにしなさい。実は、樹季のお父さんから先程電話を貰って、樹季も尊達の住まいに程近い場所に家を購入したと聞いた。お前1人なら優多を任せるのは不安だが、樹季もサポートしてくれるなら大丈夫だろう。」 尊の父の言葉で、樹季がしたり顔で会話に入って来た。 「はい!おじさん。俺が尊をフォローしますから安心して下さい!」 尊は、樹季が自分よりも父親に信頼されている様で不満だったが、父の了承を得る事が先決と思い直し口を噤んだ。 「但し。いくつか条件がある。」 「はい。おっしゃって下さい。」 「先ずは、彼のお父さんから許可を得る事。それから、優多が落ち着いたら、2人共学校に通い成績は常に上位を取る事 。食事はきちんと取り、怠惰な生活を送らない事。」 「はい。分かりました。」 「まだある。これが最も重要な条件だ。」 「はい。何ですか?」 「お前は壬生グループの後継者だ。いずれは全てお前に任せていくつもりだ。先ずは建設事業からだ。今迄の様な手伝い程度では無く本格的にやってみなさい。それが出来ないなら、優多と2人で暮らす話も無しだ。」 「。。。」 「自信が無ければ止めておけ。どうするかは、お前が決めなさい。」 尊の隣で樹季は、その様子を黙ってみていた。 一見すると、2人暮らしを止めさせようとして、尊に無茶な条件を出している様に見えるがそうでは無い。 尊は家を購入し、優多と暮らす事を誰に相談するでも無く1人で勝手に決めた。 自由を得るには責任や代償が伴う。それを背負う覚悟が有るのかと、彼の父親は問うているのだ。 そして、尊を本格的に後継者として育て上げようともしている。 愛する息子に敢えて厳しく接する父親の姿と、この機会に乗じて自分の欲を満たそうとする経営者としての打算的な思惑も垣間見えた。

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