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第36話 嶺多の葛藤。

雛多と優多の父親である嶺多は、書斎で急ぎの仕事を処理していた。 コンコンッ ドアをノックする音がして執事の声が聞こえてきた。 「旦那様、宜しいでしょうか?」 嶺多は一旦手を休めて、 「入りなさい」と告げた。 「旦那様、尊坊っちゃまがお見えになり旦那様にお会いしたいと仰ってます。」 尊? ああ。壬生家の。。 「客間に通してくれ 。これを終えたら私も直ぐに行く。」 「はい。かしこまりました。」 嶺多は、数枚の書類に目を通し終えてから客間に向かった。 其処には、神妙な面持ちをして立っている尊の姿が在った。 尊は、嶺多に気付き、礼儀正しく挨拶した。 「おじさん。連絡せずにお伺いしてすみません。」 「いや。構わないよ。そこに掛けてくれ。」 尊は「失礼します。」 と言い、嶺多と向かい合って座った 。 「葬儀の時は色々世話になったね。お父さん達には改めてご挨拶に伺うから、宜しく伝えてくれ。で、今日はどうしたんだ?」 少しの沈黙の後、尊が意を決して話し始めた。 「実はおじさんにお許しを頂きたくてこちらに伺いました。」 「私に?何を許して欲しいんだ?」 「優多が学校を卒業するまでの間、僕に彼を託して頂けませんか? 」 嶺多は、一瞬彼が何を言ってるのか分からなかった 。 尊は話を続けた。 「おじさんは仕事の為、また海外に行ってしまいますよね。」 「ああ。優多も連れて行く。」 「彼を連れて行かないで下さい。僕が面倒をみます。」 嶺多はやっと彼が言わんとしている事を理解した。 「何故、他人の君が?」 「確かに僕は他人ですが、彼にとって、今一番身近な人間は僕です。僕達は幼馴染で、小さい頃からいつも一緒過ごしてきました。僕は雛多の親友でもあります。亡くなったおばさんと彼の代わりに優多の傍に居てやりたいんです。」 「気持ちは分からなくも無いが。。君はまだ15歳だ。子供の君に何が出来ると言うんだい?」 嶺多は優しく諭すように尋ねた。 「おじさんが仰る通り、僕はまだ15歳の子供です。でも、優多は僕よりも幼い12歳なんです。彼は、おじさんが年に数回しか帰ってこれない間、いつも傍に居てくれた母親と兄を一度に亡くしたんです。」 「。。。」 「もし彼を一緒に連れて行ったとしたら、おじさんが仕事で忙しい間、誰が彼の傍に居てくれますか?」 尊は、嶺多に遮る間を与えないかの様に自分の想いを伝え続けた。

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