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第37話 手離す決心。

「僕には、まだ何の力もありません。ですが、彼が寂しい思いをしないように、彼の隣に居て話を聞き、慰めてあげる事は出来ます。母親と兄との思い出を一緒に語る事が出来ます。」 「。。。」 「彼が落ち着きを取り戻したら、学校にきちんと通わせて、勉強も僕がみます。僕に解決出来ない様な問題が起きた場合は必ずおじさんに相談します。」 尊の話を聞きながら、嶺多は表情にこそ出さなかったが、心の中は酷く驚き、動揺していた。 自分が心の奥底に隠していた気持ちを、目の前に居る少年に見透かされた気がしたからだ。 彼は、自分の息子を愛していたが、息子を一緒に連れて行く事によって、自分の仕事に支障をきたすのではないかと憂慮していた。 又、年に数回しか会っていない息子の心のケアをどうすれば良いのか。今、息子が何を必要としているのか全く分からなかった。 だからと言って、自分の愛する息子を彼に託しても良いのか考えあぐねていた。 「おじさん、今僕を信じる事は難しいかも知れませんが、これから少しずつ証明していくつもりです。」 その心情を察したかのように、尊は嶺多の眼を真っ直ぐ見つめ、再び口を開いた。 「ここには僕だけでなく樹希も居ます。彼もまた雛多の友人であり、優多の事を弟の様に思っています。両親も優多の事を息子の様に思っています。僕の至らない点は彼等がサポートしてくれるでしょう。」 「おじさん、無茶なお願いをしているのは、分かっています。ですが、優多を僕に任せて頂けないでしょうか?勿論彼の気持ちが最優先なので、彼がそれを望んでくれれたらの話ですが。。」 全てを聞き終えた嶺多は素直に驚嘆した。 たった15歳の少年が、自分の親と同年代の大人と対等に話をするだけでなく、説得する事を試みているのだ。 この少年は自分よりも息子を案じ、大切に想ってくれているかもしれない。。 それを認める事は、父親として情けなく恥ずべき事だったが、きっとそれが事実なのだ。 嶺多はもう一度目の前にいる少年をじっと見つめた。尊はたじろぐこと無く、真っ直ぐに嶺多を見つめ返した。 少しの沈黙の後、嶺多は立ち上がり、 「私に付いて来なさい。」 そう言うと、2階に向かって歩き出した。 彼は亡くなった雛多の部屋の前で足を止めた。 「あれから優多はずっと雛多の部屋に閉じこもっている。食事も睡眠もろくに取らず、一言も発さず、泣きもしない。」

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