39 / 55

第38話 君が大人になる迄は。。

「1日中ぼんやりとしているんだ…」 嶺多は、溜息混じりの言葉を吐いた。 「僕が話しかけても良いですか?」 「ああ。構わないよ。」 尊はドアをノックし、部屋の中に居る優多に話しかけた。 「優多。俺だ。尊だ。入っても良いか?」 暫くして、消え入りそうな小さいな声がドアの向こうから聞こえた。 「うん。。」 ドアを開けると、優多がベッドの隅に座っていた。 目は虚ろで、無表情なその顔からは何の感情も読み取れなかった。 尊は優多の前まで行き、彼の頭を優しく撫でた。 そして正面にしゃがみ込み、彼の眼を見つめながら微笑み、彼の両手を自分の両手で包み込んで言った。 「優多。俺と一緒に暮らそう。俺は優多の前から決して居なくならない。だから、これからは俺が傍に寄り添ってお前を守っても良いか?」 それを聞いて優多の眼に少し力が入った。 優多は尊の眼を見据え、一言呟いた。 「ずっと?」 「ああ。ずっとだ。」 「本当に居なくならない?」 「ああ。」 「いつか。。お前が大人になって、もしも俺の傍を離れたくなったら、自分の足で歩んで行きたくなったら、俺の手を握って、もう大丈夫だからと言ってくれ。その時は笑顔でお前を送り出してやる。」 「お前が俺に傍に居て欲しくないと言わない限り、俺はお前を決して独りにはしないよ。」 彼のその暖かく愛情に満ちた言葉を耳にした瞬間、表情を失くしていた優多の顔が歪み、眼から堪えていた涙が溢れる様に伝え落ち、尊に抱きつき大声で泣きじゃくった。 尊は優多を受け入れ、優しく抱きしめ、もう一度頭を撫でた。 「大丈夫。大丈夫だ。俺がいるから。」 嶺多はその情景を目の当たりにし、ショックを隠しきれなかった。 妻と長男が亡くなってから、一度も涙を見せず、なんの感情も表さなかった優多が。。 自分がいくら慰め、心を開かせようとしても堅く心を閉ざしていた我が息子が。。 赤の他人の、しかも15歳の少年の言葉で、心を開き涙を流しているのだ。 彼は、息子が今必要としているのは、父親の自分よりも、優多を抱きしめているこの少年だという事を認めざるを得なかった。 嶺多は、尊に息子を託してみようと心に決めた。 だが一方では。。 何故か胸の中はザワつき、言い様の無い不安に襲われていた。 しかし、尊に必死にしがみ付き泣きじゃくっている息子を見て、その止め処なく湧き上がってくる不安な思いに静かに蓋をした。。。

ともだちにシェアしよう!