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第42話 一粒の水滴。

冷たい風が吹き、汗が引いて急に寒さを感じ、至は軽く身震いをした。 彼は、俺に屈むようにと、手でジェスチャーをした。 少年の前に屈むと、彼は自分がしていたマフラーを俺の首に巻いた。 すると、首周りだけで無く、身体全体が暖まる様な感覚に襲われた。 少年は俺の眼を見つめたまま、美しい手で頰をそっと撫でて来た。 彼の手の感触を肌で感じながら、至は鼓動が早まっていくのを感じた。 彼は至をそっと抱きしめると、背中をポンポンっと軽く叩いた。 その瞬間、一粒の水滴が地面に落ちた。 不思議に思い、顔に手をやると、自分の頰が濡れていた。 至は、その時初めて自分が涙を流している事に気が付いた。 両親が亡くなった時でさえ、涙は出なかったのに。。 あの時、俺は何故泣かなかったんだろう。 泣きたくても泣けなかっただけかもしれない。。 至は少年の無言の優しさにふれ、彼を強く抱きしめ返した。 暫くして、落ち着きを取り戻した至は、彼の声を聞きたくなり、話し掛けた。 「お前。名前は?」 少年の返事を待っていると、背後から声が聞こえた。 「坊主そろそろ脚立を返してくれんかね。」 振り向くと、先程の庭師が立っていた。 「ああ。おじさん、すみません。ありがとうございました。」 至は、慌てて庭師に頭を下げ、お礼を言った。 「鳥を巣に戻してやったのか。坊主達良い事をしたな。」 てっきり、叱られるのかと思っていたが、 強面の庭師の表情は柔らかかった。 俺は心が温かくなるのを感じた。 こんな気持ちは、いつ以来だろう。。 その時、ホテルの玄関口の方から叔母と1人の男性が連れ立って歩いてきた。 男性は、少年の前で足を止めて、俺に話し掛けて来た。 「君も事故でご家族を失くされたんだね。息子の相手をしてくれて、ありがとう。」 少年の父親らしきその男性は、口調や物腰は柔らかだったが、威武堂々とした雰囲気を醸し出していた。 きっと大きな会社の重役か何かなのだろうと至は思った。

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