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第43話 同じ痛みを抱える人。

男性は、叔母と俺に向かって一礼した。 「では,私共はこれで失礼致します。」 「はい。では。」 叔母と挨拶を交わした後 「優多。帰ろう。」 男性は彼の手を取り、歩き始めた。 少年は帰り際にちらりと振り向くと、此方に向かって小さく手を振って来た。 俺も慌てて手を振りかえし、彼等の後ろ姿を見送った。 「さぁ、私達も帰りましょう。」 「うん。」 至は、歩き始めて間なしに叔母に尋ねた。 「あの人達、叔母さんの知り合い?」 「あの親子?貴方、覚えていないのね。無理もないわ。。私達が病院に駆けつけた時、彼等も同じ病院に居たのよ。私達と同じで、あの事故でご家族を失ったのよ。あの少年は、お母さんとお兄さんを亡くされたそうよ。」 「事故の後、ショックで口もきけなかったらしいんだけど、最近では身近な人達とは話をする様になったって、彼のお父さんが仰っていたわ。」 「あの子は、至よりも幼いわね。多分、うちの子供達と同じ歳くらいね。本当に気の毒だわ。。」 叔母の言葉で、彼が一言も話さなかったのも、自分を優しく抱きしめてくれた訳も理解出来た。 あの少年は自分と同じ痛みを抱えているんだ。。 至は、先程出会ったばかりのまだ幼い彼をとても身近に感じ、あの子が自分の傍に居てくれたら安らげるだろうな。。 そんな事を思っていた。 「さっ。車に乗って。」 叔母の声で、ふと、我に返ると、いつの間にか車の前に立っている自分が居た。 車に乗り込み、車内が暖房で暖まってウトウトし始めると、叔母が話し掛けて来た。 「貴方、上着忘れていったでしょ。あんな長い時間外に居て寒くなかった?」 「いや。寒かったけど途中から暖かくなったよ。」 至は、そう答えた。 「そう?なら良いけど。あらっ?貴方。 今日そんなマフラーして来てた?」 叔母にそう言われ、あの少年にマフラーを返し忘れた事に気が付いた。 俺はその事には触れず、話を逸らした。

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