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第45話 不器用な親子。
優多と父親の嶺多は、夕食を済ませてから、成田国際空港に到着した。搭乗時刻まで余裕が有った為、2人はターミナルカフェで、お茶を飲んでいた。
嶺多は、2人きりで過ごす時間が殆ど無かった息子と、何を話したら良いのか考えあぐねていた。
「コホンッ」と一つ咳払いをして、
優多に話し掛けた。
「体調は良くなったか?」
「うん。もう、大丈夫だよ。」
「そうか。。」
次の言葉が出てこない。。
会社で大勢の社員を率いている俺が、、息子1人にどう接したら良いか分からないなんて、お笑い種だな。
優多は嶺多の寂しそうな表情に気が付き、ぽつりと呟いた。
「来週。。」
「えっ?」
「体調も良くなったから、来週から学校に行くよ。学校へは尊の家の車で送迎してもらうし、心配しなくても大丈夫だよ。。」
「そうか。。尊に任せて正解だったな。。」
「うん。大切にしてくれてる。」
「良かったな。。。」
息子が元気になってくれたのは喜ばしい事だったが、自分は必要とされていない気がして、彼の心中は複雑だった。
嶺多は腕時計に目を落とした。
「もう行く時間だ。尊がお前の帰りを待ってるだろ?見送りは良いから、運転手が待機してるから、このまま家の車に乗って帰りなさい。次に会う時迄、元気でな。」
嶺多は、席を立ち、歩き始めた。
不意に背中から暖かな熱が伝わって来た。
「お父さん。大好きだよ。」
そう言いながら、優多は、父親の背中を強く抱きしめた。
嶺多は、熱くなった目頭を指で押さえ、振り向いて息子を強く抱きしめ返した。
「父さんもだ。お前の事が大好きだ。」
それは、互いを思いやりながらも、その思いを上手く伝え合う事が出来ない、不器用な親子の精一杯の別れの挨拶だった。。
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