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第47話 悪気ない言葉。
「嫌な事でも有ったのか?」
優多は彼の胸に顔を埋めながら呟いた。
「違う。自分が嫌になっただけ。。」
尊は左腕で優多を包み込んだまま右手で彼の頭を撫で、彼に優しく問い掛けた。
「聞いてやるから、話してみろよ。」
「。。今日、お父さんと一緒に過ごしたでしょ?」
「うん。」
「俺の家族はもうお父さんしか居ないのに、2人で居るとなんだか気まずくて、、」
「うん。」
「尊兄と居る時は、そんな気持ちにならない。むしろ楽に呼吸が出来る感じ。。」
「そうか。。」
「でも、、お父さんはそんな俺の気持ちを察したみたいで、少し寂しそうな顔をしてた。」
「。。。」
「俺がそんな気持ちにさせてるんだって思ったら、悲しくなって自分の事が嫌になったんだよ。。」
尊は優多の落ち込む姿を見て、今、自分の中に沸き起こっている原因不明の感情を、一旦傍に追いやる事にした。
そして優多の両頬に自分の両手を添えて、彼の顔を抱え上げると
優多の目を見つめながら、口を開いた。
「優多。お前。お父さんの事が大好きだろ?」
「うん。」
「おじさんだって、同じ気持ちの筈だ。但、色々な事が起こり過ぎて、2人共戸惑っているだけだと思うよ。」
「。。そうかな?」
「そうさ!今度おじさんが帰国した時には、うんと甘えてやればいい。」
「本当にそれだけで良いのかな。。?」
「俺がお前に嘘をついた事が有ったか?」
優多は首を大きく横に振って答えた。
「一度も無い。」
「だろ?それで充分だ!」
尊が笑顔を向けると、彼に連れて優多も安堵の表情を浮かべた。
「尊兄がそう言うなら、きっと大丈夫だね。分かった!次にお父さんに会ったら沢山甘えるよ!」
優多の愛らしい表情を眺めながら、尊は先程傍に追いやった、原因不明な感情の正体を確かめたくなった。
彼は、意を決して話しを切り出す。
「優多。あのさ。。今朝の事なんだけど。。」
「今朝の事。。って?」
「その。。お前の頬にキスした事。。嫌だったか?」
「。。なんでそう思うの?嫌じゃなかったよ。」
優多の何気ない返事に、期待で胸が震え、鼓動が高鳴る。
だが、次の瞬間、期待は落胆へと早変わりした。
「外国の挨拶みたいなもんでしょ?そりゃあ、少しは驚いたけど、全然気にしていないよ。」
優多の口から付いて出たその悪気ない言葉は、尊を心悲しくさせるのに充分なものだった。。
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