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第50話 顔すら知らない相手。
俺の居場所は、尊兄の隣だから。。
優多の耳心地の良いささやきが身体中に染み渡っていき、尊は平静を取り戻した。
優多はおずおずと尊の顔を覗き込みながら尋ねた。
「俺の気持ち分かって貰えた?」
尊は、笑顔を浮かべて答えた。
「うん。良く分かった。」
「そっかぁ。それなら良かった。」
優多は尊の返事を聞き、嬉しそうに微笑んだ。
「うん。もう変に誤解したりしないから、さっきの続き話して。」
「続きって?」
「優多よりも寂しそうな目した人の話。」
「ああ。あの人ね。今日お父さんとホテルに行ったでしょ?」
「うん。遺族の話し合いだろ?」
「そう。それで俺はホテルの庭園で散歩していたんだけど、其処で彼に出会って、、」
「出会って?」
「う〜ん。詳細は省くけど、最初彼が鳥の雛を巣に戻してくれて、彼を見たら上着を着ていない事に気が付いたんだ。寒そうだなって思って、彼の顔を覗き込んだら、彼の目が何か悲しみに耐えていて、凄く寂しそうに見えて。。だから、少しでも暖めてあげたくなって、マフラーを彼の首に巻いたって訳。」
「うん。何となくだけどお前の言いたい事は分かった。」
「その後お父さんが俺を迎えに来て、その人とは其処で別れたんだけど、車内でお父さんから聞いたんだ。彼のお母さんもあの事故で亡くなったって。。。」
急に優多の口調が重くなり何かを言い澱んでいる様だった。
「うん。それで?さっき、もう誤解しないって言ったろ。だから、俺には全部話して。」
尊は優多が話し易い様に、柔らかな口調で語りかけた。
「うん。。それで分かったんだよ。あぁ。彼は俺と同じ痛みを抱えている人なんだなぁって。自分でも不思議に思うけど、初めて会った人なのになんだか心地良くて、彼の事をとても身近に感じたんだ。」
「そうか。。良い事をしたんだな。」
尊はそれだけ言うと、彼の頭を優しく撫でた。
だが、尊は内心では違う事を考えていた。
優多は率先して初対面の人に関わろうとするタイプではない。
彼が寂しそうだったからといって、初めて会った人にあの大切なマフラーをやるなんて。。
優多を一番身近で見てきた尊にとって、彼が取った行動は俄かに信じ難いものだった。
それだけ特別な相手だったって事か。。
一体どんな奴なんだ?
尊は、顔すら知らないその男の事を考えると、チリチリと胸が焼け付く様な感覚に襲われた。
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