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第11話

「冷えて来たね。」 はーっ、と白い指先に息を吹きかけて、水無瀬はそう溢した。 「えー、まだ10月だよ?そんな冷える?」 「冷えるよー。僕夏でも手先冷たいもん。」 「水無瀬の冷え性は女子並だから…っおい!」 「ちょっとだけ!お願い龍樹!」 水無瀬は少し強引に龍樹の手を取ると、両手で包み込んですり合わせた。 龍樹は昔から体温が高いから、冷え性なら触れているとぬくぬくして気持ちがいいだろう。 (…羨ましい。) 龍樹くらい体温が高かったら、俺にも同じようにしてくれたのかな。 なんて。 冷たい離せ、と文句を言うくらいなら代わって欲しいとさえ思う。 けれど例年なら聞こえて来るその文句がいつまで経っても聞こえてこない。 不思議に思って視線だけ龍樹に向けると、龍樹は俯いたまま手だけを水無瀬に差し出していた。 髪の毛から覗く耳が、赤い。 (…あれ?) 「うん、大分あったまった。」 「なげぇよ…」 (もしかして、龍樹…) 「僕なんか温かい飲み物買ってこようかな…何かいる?」 「綾鷹ー。」 「伊右衛門。」 「うん、お茶ね」 水無瀬の背を見送って、ちらりと龍樹を見れば。 ほんのりと頬を赤く染めて、水無瀬が握っていた方の手を大切そうに撫でていた。 「…龍樹、もしかして…」 まだなにも言っていないのに、龍樹はボッと再び赤くなった。 生まれてこのかた、ずっと一緒にいた弟のそんな顔を見たのは初めてだ。 「水無瀬のこと好きなの?」 疑問形で投げかけはしたものの、答えはもうわかっていた。そしてその答えを、聞きたいような聞きたくないような。 問いかけておきながら、水樹は龍樹の唇から飛び出す言葉を予想して恐怖に震えた。 しかし龍樹の答えは、水樹の想像の上をいった。 「……つき、あって、る…」 付き合ってる。 言葉尻がどんどん窄まって最後の方は聞き取り難いほど。 真っ赤になった顔は、耳や首まで赤くなって、どんどん俯いていった。 「え、と…いつから?」 「…夏休み明け。」 夏休み明けって。 昨日今日の話じゃない。 少なくとも数ヶ月は経っていて、その間も水樹はずっと一緒にいて2人を見ていたはずなのに。 そんなに、鈍い方じゃないと思っていたのだけど。 そっと、龍樹が水樹の様子を伺ってきた。 どういう反応をしてやるのが正解なのかわからない。いつもどうしてたっけ。 とりあえず、喜んでやらないと。 水樹はぐるぐると同じところを行き来する思考回路を叱咤して、やっとの思いで口を開いた。 「…なんだ、そっかぁ。」 「…水樹?」 うまく声が出せただろうか。 いつも通り明るい声。 あれ、そもそもなんでこんなに動揺してるんだ? 「やだな、言ってよ!俺すごい邪魔者じゃん!」 「そんなこと…」 「あるんだって!そうとわかったら退散しないと…じゃ、またねー!」 「おい水樹!」 龍樹の制止も聞かず、水樹はその場を後にした。 いや、逃げた。

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