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第13話

数ヶ月が過ぎて、水樹は高校生になった。 とは言っても中高一貫なので制服も変わらず校舎も変わらない。唯一変わったのはタイの色。千歳緑から群青になったことくらいだ。 その程度では特に感慨もなく、ただなんとなく肩書きが変わって少しだけ大人になったような気がした。 ─── 水無瀬への恋を自覚し、そして気付いたその瞬間に散った切なさを抱えたこの数ヶ月、龍樹や水無瀬とはほとんど会わずに過ごした。 特進科と普通科ではそもそも授業時間数が違うので、会わないようにするのは簡単だった。 寮でも龍樹の部屋に行くのをやめて、自室にもいないようにした。 空白の時間は部の仲間と遊んだり奈美と遊んだり、特に暇をすることはなかった。 中高一貫の特性で受験はないので勉強は最低限しかしなかったが、年相応の日々だった。 突然距離を取られた龍樹は困惑したようで、暫くは携帯がうるさかったが、その度自分より恋人を優先しろとしつこく諭せばいつしか諦めたようだった。 それからはまた、逆戻りだ。 一際目立つ天使様こと水無瀬を遠巻きに眺める日々。隣に弟の姿があるのも変わらない。 変わったのは、2人の関係が友人から恋人になったこと。2人を眺める水樹の胸が痛むようになったこと。 「みーずき!お昼食べに行こ!」 藤田への失恋を経た後、色気付いた奈美は水樹から見ても綺麗になった。 女は化粧で化けるというが、奈美は素材がいいのもあって薄化粧でも十分綺麗だったし、出会った時は短かった髪も、気を使い始めたのか艶やかなロングヘアに変貌していた。 龍樹もここ数ヶ月で急に背が伸び始めて、ぐっと精悍な顔立ちになった。 水無瀬に至っては成長して男臭くなるどころか、神々しささえ感じるほどだった。 それに引き換え、水樹はむしろ成長が止まってしまったかのように身長も伸びなくなったし、顔も幼いままで、よく似ていたはずの双子の弟とは大分かけ離れてしまった。 いつまで経っても変化がないのは自分だけのような気がして、少し劣等感さえ覚える。 「ねー、水樹なんで空手やめたの?」 「一般部に上がって段位取り直すのが嫌だっただけ、特に大きい意味はないよ。」 「ふーん…でも水樹、痩せたよね。」 「うるさいよ。」 「結構筋肉あったのね。」 「うるさいってば。」 そう、体格に関して言えばむしろ小さくなってしまったのも否めない。 部活のおかげで落ちた筋肉が無駄な脂肪になることはなかったが、だからこそ余計に全体的に小さくなった。 それでも、元来華奢な骨格に見合った一部の無駄もない脂肪も筋肉も、他人から見れば賞賛に値するものではあったが。 明るい人柄にΩという劣性を感じさせない高い運動能力、際立って良くはないが平均よりは上をいく成績。 幼さを未だ色濃く残した端麗な顔立ちも手伝って、水樹はΩ性でありながらすっかり人気者と化していた。 「ま、痩せて庇護欲唆られるのか水樹の人気は高まった気はするよね。」 「この前生脱ぎ靴下売ってくれって言われたけどこれは人気と捉えていいと思う?」 「いくら?」 「両方で1万。」 「たっか!」 「ちょっと考えちゃったよね…」 それはそれで、苦労も絶えないのだけど。 私物は無くなるし、下駄箱にいろんなものが入ってるし。靴下以外にも売ってくれとか貰ってくれとか。 中学に入った頃受けていた嫌がらせと大差無いので、悪意と好意が表裏関係にあることを目の当たりにしているのだった。

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