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第14話

その放課後。 日直だった水樹は職員室から普段は使わない道を通って部室に向かっていた。 だから、いつもは見かけない所を見た。 (あれ、水無瀬だ。) こんなに近くで見たのは久しぶりのような気がする。向こうは水樹に気がついていないようで、校舎の壁に寄りかかってどこかぼんやりと快晴の空を見上げていた。 薄い色の髪が、太陽の光でキラキラしている。普段は茶髪とも金髪とも表現しがたい色が、この時ばかりは金髪に見えた。 ガラス玉のような青い瞳は相変わらずで、空の青よりも透明感があって。 (水無瀬って、やっぱり天使みたい。) 自然とそう思ってしまうくらい、美しかった。 (少しだけなら…) 声をかけてもいいかな。 胸の奥にしまい込んだ恋心がひょっこり顔を出す。 その声を聞きたくなってしまった。 その美しい瞳に映りたくなってしまった。 一歩踏み出して、声をかけようと息を吸い込んで、しかしその空気が喉を震わせることはなかった。 水無瀬が立っていたすぐ横の窓が開いて、顔を出したのは、双子の弟。 龍樹だった。 その場に立ち尽くした水樹は、その後の一連の流れをじっと見ていた。 龍樹と視線が合った水無瀬が柔らかく微笑んで、二言三言。何か言葉を交わした。内容は当たり前だが聞こえない。 よく知る弟は仏頂面が多いというのに、その時の龍樹は珍しく笑顔だった。 その笑顔がまた幸せそうに見えて、ズキンと胸の奥が鈍く痛む。 そして水無瀬の手が窓枠から少し身を乗り出した龍樹の頭にかかって、顔を寄せて、耳元で何かを囁いた。 龍樹は一瞬驚いた顔をして頬を染めたものの、すぐに破顔してなにやら頷いている。 その小さな首の動きに合わせて、特進科の証である群青色のリボンタイがふわりと揺れた。 2人のその姿があまりにも、綺麗で温かくて優しくて、そうまるで一枚の絵画のようで。 とても、入り込めなかった。 それ以上は見ていたくなくて、そっと踵を返す。 部室には少し遠回りしていこう。 水樹は来た道をそのまま戻り始めた。 今日は足が棒になるまで走って、その後は誰か適当に誘って寮の消灯時間まで騒ごう。 あんな綺麗な世界は、俺には似合わない。 水樹は無意識に首元に手をやった。 四六時中着けているせいでとうに違和感もなくなってしまった首輪がそこにある。 『汚くないよ。』 水無瀬はそう言ってくれた。 嬉しかった。 けれど、汚くなくても綺麗ではないのは事実だ。 (龍樹が、羨ましい。) 弟に対して明確に強い嫉妬を覚えたのは、初めてのことだった。

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