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第15話
ただひたすら走った。
体を動かしている間は無心でいられた。
めいっぱい動いて疲れ果てて、そのまま友達と騒いで死んだように眠って忘れてしまいたかった。
なのに、いくら走っても脳裏から離れない先ほどの水無瀬と龍樹の姿。
「おい水樹…少し休んだらどうだ?」
無茶なペースで走り続けたせいか呼吸が熱い。こんな疲れ方は全然心地よくない。
水樹は滴り落ちる汗を拭って、差し出された水筒を受け取った。水分が身体に入って来ると、途端にどっと疲れを感じて、その場にしゃがみこむ。
(…なんで、俺Ωなんだろう。)
少し脱水していたのかもしれない。
妙に頭の中がスッキリして、そのせいで余計な思考までもが回ってしまう。
自分がΩであることに疑問を抱いたって、答えなんか出るはずがないのに。
「…藤田。」
「おう。」
「帰る。」
「おう、帰れ帰れ。」
(みんな、αなのに。)
父も母も、両祖父母も。
叔父も叔母も従兄弟も。
龍樹も。
「なんで俺だけ…」
部のTシャツを脱ぎ捨てて、ワイシャツに袖を通して第1ボタンを留めようとしたら首輪に触れた。
それはいつものことなのに。
カッと、身体中が燃え上がった。
覚えのある感覚だ。
すぐに水樹はそれがなんなのか理解した。
(発情期…)
熱い呼吸もうまく力の入らなくなった身体も濁った思考も、疲労からじゃなかった。なんとか立っていた脚からガクンと力が抜けて、その場にへたり込む。
あっという間に後孔から溢れた蜜で湿った下着が不快だった。
「…ここんとこ、調子、よかったのに」
元々薬の効きがいい訳ではない。効くときもあればこうして全く意味をなさない時もままあった。
それでも全く効かずに副作用ばかり重いΩも珍しくないのだからまだマシと思ってはいるものの、やはり実際に発情期が訪れると憂鬱以外の何物でもない。
(どうしよう…とりあえず特効薬…)
特効薬は、カバンの中に常備している。
こういう時に限って上の方のロッカーにカバンを投げ入れていた。
力の入らなくなった脚は既に言うことを聞かないし、だんだん発情も本格的になってきて布が肌に擦れるだけで快感に直結する。
ちょっと立ち上がってカバンを取るだけの動きが、ひどく億劫だ。
水樹は視線を下に落とした。
「…はは、すっごい惨め…」
きっと今誰かが来たら、はしたなく誘って誰彼構わず腰を振ってみっともなく何度もイくんだろう。
そこに己の意思が存在するかどうかは別にして。
落とした視線の先で既に屹立した自身。欲望のままにそっと制服の上から触れただけで電流が走った様に身体が跳ねた。
幸い部活の終了まではまだ結構時間がある。
一度だけでも抜いて少し波が引けば、誰にも迷惑かけずに済むだろう。
うんざりしながら制服を脱ごうとベルトに手をかけたその時。
カチャリ、と控えめな音を立てて部室のドアが開いた。
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