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第22話
龍樹にこまめに連絡を取るようにしてはや1ヶ月。
人見知りで内弁慶で口下手で愛想なし。
本があって水樹がいれば友達なんていらないと言い張ったのは小学校に入った頃だったか。
本ばっかり読んでてスマホなんて触らない、そんなあの弟からは信じられないくらい早く返信がいつも返ってきて、俺ってば弟に愛されてるなぁと逆に感心してしまった。
「それにしたって返信早過ぎだから!」
水樹から送る内容なんて、もう日記同然。
こんなの毎日送られてきたら、確実に水樹はキレる。
しかも時折送られてくる水無瀬との楽しそうな2ショット写真、これは一体なんの嫌がらせなのか。
写真の角度から水無瀬が龍樹のスマホを奪って自撮りモードで撮っているのは明らかだが、大方スマホばっかりいじってる龍樹への意趣返しだろう。巻き込まないでいただきたい。
そう思いながら律儀にメールしてるあたり、自分も大概龍樹に甘い、と水樹は呆れるのだった。
「…はぁ…」
ひとまず止んだ龍樹からの返信の波を見届けて、水樹はゴロンとベッドに横になった。
送られてきた写真は、迷惑だと思いながら毎回しっかり保存している。
今回ももちろん保存して、想い人のお美しいご尊顔をひっそり眺めるのだ。我ながら気持ち悪い。
「…きれーな顔。」
薄い色の髪も、理想的なアーモンド型の目も、そこに埋め込まれたガラス玉のような瞳も。
すっと通った鼻筋も、血色のいい薄い唇も。
それら全てを絶妙なバランスで乗せている抜けるような白い肌も。
天は二物を与えずなんて嘘だ。
こんなに美しくて、頭も良くて運動神経も良くて人当たりまで良くて、人生勝ち組のα性まで持って。この人は一体何を持たないのか。
龍樹が心底羨ましい。
きっとこの美しい人は、龍樹にだけ見せる顔があるんだろう。
(あー、泥沼。)
一丁前に嫉妬なんかして。
ウジウジと考え込むのはらしく無いというのに、水無瀬のことになるととことん惨めだ。
───
そして再び、水無瀬との自販機の前でのやり取りも始まった。10円をせがまれることは流石になくなったけれど。
わざわざ購買で欲しくもないお菓子を買って小銭を作って来たのに。
しかし考えてみれば10円玉をせがむのは話しかける口実というネタばらしまでされている。再び水無瀬から10円くれと言われることはもうないだろう。
(アホか、俺…!)
そんなある日、水無瀬がにっこり微笑んで言った。
「お兄ちゃん、龍樹に連絡取るようにしてくれたんだね。わかりやすく喜んでるよ、ずーっとスマホ気にしてる。」
そわそわスマホを気にする弟の姿は想像できないが、毎日のメールの返信率を見ればそれは明らかだ。
少しやりすぎたかなと反省してしまうくらいに。
「知ってる…秒速で返信くる…」
「ほんとお兄ちゃん大好きだよねぇ龍樹。」
「水無瀬と仲良くなるまで友達らしい友達もいなかったからね。」
水樹の友達とそこそこに仲良くすることはあっても、龍樹自身の友達というのはいなかった。
だからこそ、クラスの中心にいるような水無瀬みたいな人と仲良くしているのが最初は信じられなかったのだけど。
思えば最初から、惹かれていたのかもしれない。水樹が入学式で魅入ってしまったように。
それだけの魅力が、この美しい人にはある。
(好みは全然違うはずなんだけどなぁ。)
食べ物から色まで。
ここにきて好みのタイプは一緒とか、笑えない。
「メールじゃなくて会ってあげればいいのに。」
「やだよ、馬に蹴られたくない。」
「やっぱりそこ気にしてるんだ?僕も龍樹も邪魔だなんて思わないよ。」
「二人がよくても周りから見たら…」
俺ただの邪魔者だよ。
そう続けるつもりだった言葉は出てこなかった。
廊下の角を曲がって現れた人影に目を奪われたから。
「…佐藤先輩。」
「水樹…?」
発情期のときに強姦されて以来、会うことができていなかった佐藤だった。
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