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第29話

「…ねぇ龍樹、やっぱり怖い?セックスするの…」 水樹はこの質問を投げかけた時、既に正気を失っていた。 目の前は真っ赤に染まって、見えているのに見えていない。全身の血が沸騰したかのように熱くて言うことを聞かない。 頭に浮かぶのはただ一つ。 欲しい。それだけだった。 水樹の異変に気が付いた龍樹が慌ててポケットから取り出した錠剤を一つ口に含む。 ヒート抑制剤だ。 けれど、錠剤タイプはすぐには効力を発揮しない。 水樹は腰掛けていたベッドから降りて、理性と本能の狭間で揺れて動けなくなっている龍樹に近寄り、ゆっくりと乗り上げて顔を近づけた。 そっと髪をかきあげて、左のこめかみに残る傷痕をつうっと撫でると、龍樹の息が一層乱れて熱くなる。 その様子を満足気に眺めた水樹は、まるで壊れ物に触れるかのようにそこに唇を寄せた。 「…っ、やめ、はっ…」 「ねぇ、龍樹はさ…水無瀬をどうしたいの?抱きたい?それとも抱かれたい?α同士で男同士ならどっちも不自然じゃないもんね。」 「みず、っく、やめろ…っ」 「やぁだ。」 徐々に体重をかけると、龍樹はあっさりとそこに倒れた。 ヒートを起こしかけている生理的なものなのか、それとも単純に嫌悪感か、瞳は濡れている。 その視線にゾクゾクと興奮を覚えて、じわりと後孔が主張を始めた。 「ね、龍樹…怖いことなんてなーんにもないんだよ、痛いこともない。だってもう子どもじゃないんだから…ほら、ちゃんとここに入るんだよ?」 強引に手を引いて、濡れて待ちわびている後孔に触れさせると、ビクリと龍樹の身体が跳ねた。その表情は硬い。 しかし布越しに刺激を受けてしまった水樹の方は我慢も限界だった。次から次へと溢れ出る蜜がそれを物語っている。 きゅんと収縮するそこに何も入っていないのが切なくて寂しくて苦しくて。 「…っ、たすけて…」 ぱた、と龍樹の頬に落ちたのが己の汗だったのかそれとも涙だったのか。 2人の体制が入れ替わったせいでわからなかった。 ギラギラ光る目。 獣のような息遣い。 こんな龍樹は初めて見た。 龍樹は水樹を見下ろしながら戦っている。けれど時間の問題だろう。 なんだちゃんと、性欲あるんじゃん。 悲しいようながっかりしたような。 しかしそれ以上の興奮が水樹を支配していた。 浮かべた表情は、笑みだった。

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