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第32話
他人のフェロモンが身体の中に無理矢理入り込んでくる。
全ての血液が入れ替わる。
全ての肉が骨が皮膚が再生する。
灼けつくような快感を伴うフェロモンの侵略に酔って、これは果たして現実なのか夢なのか、はたまた妄想なのかもわからなくなった。
「…っ、」
「ぅ、あっ!」
一瞬息を詰めた水無瀬は、グッと性器を膨らませて、今度は勢いよく頸に噛みつき、そして果てた。
ヒート特有の大量の精は、とても収まりきらない。
結合部の隙間からとろとろ溢れ出す生暖かい精液は、もう既になんの役にも立っていない水樹の脚を伝って徐々に汚していった。
「…?起きてる?」
「おき、てる…」
「そう、ならいい。面倒だから処理は自分でやってね。」
「ん、やぁあっ…」
そんなひどいことを言いながら、水無瀬は身体を起こして背面座位の体制をとり、うなじに滴る血を舐めとった。
体制が変わる瞬間に擦れた中も、うなじを這う舌も、叩きつけられる精液も、全てが快感で、再び自身は硬さを取り戻してしまう。
それを見た水無瀬が控えめに笑って、
「…淫乱。」
と囁くので、涙腺は決壊した。
しかし水樹にとってそれ以上に信じたくなかった出来事が、直後に起きた。
かちゃ、と小さな小さな音を立てて、顔を真っ青にした龍樹がトイレから出て来たのだ。
「た、つき…」
「水樹…?」
「たつ、だめ、や、離し…ぃあっ!」
しかし水無瀬が離してくれることはなかった。それどころかこれ見よがしに再び水樹のうなじに噛み付いて、そしてこう言った。
「混ざる?」
龍樹は信じたくないとでも言うようにゆっくりと首を振って、じりじり後ろに下がり、やがて駆け出して部屋を飛び出していった。その後姿を、呆然と見ているしか出来なかった。
恐怖。
悲哀。
嫌悪。
軽蔑。
あらゆる負の感情を前面に出したあんな龍樹の顔。
「…ふふっ。」
そして後ろから聞こえた愉しげな笑い声に、水樹は遂に激昂した。
「お前っ!何が…んぁっ!」
「何が可笑しいって?可笑しいでしょ。見た?今の龍樹」
「く、んんっ…も、やめっ」
「君があんな顔させたんだよ、水樹」
それ以上聞きたくなかった。
もう許して欲しかった。
けれど許してはくれなかった。
「欲しいもののために人を、それも弟を傷つけるなんて、Ωって本当に汚い生き物だよね。」
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