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第41話

次に意識が戻った時、やけに頭の中がスッキリしていた。 時刻は昼だった。 昨夜何時に布団に入ったっけ。 こんなに長時間目覚めることなく、周りの音に微妙な覚醒をすることもなく熟睡出来たのは久し振りだ。身体を起こしてみると、とても軽い。 きちんとした睡眠が如何に大切か身に染みる。水樹は辺りを見渡したが、一緒に寝たはずの弟の姿はなかった。 学校行ったのかな。 と思ったが、枕元のスマホに龍樹からメッセージが入っていた。 『昼飯買ってくる。すぐ戻る。』 簡潔なメッセージが龍樹らしい。 きっと目を覚まして水樹が1人でも不安がらないように気を使ってくれたのだ。 とりあえず顔を洗ってこよう。 そう思って布団から這い出て、思い切り伸びをする。窓を開けると秋特有の爽やかな風が入り込んで気持ちよかった。 そして、ふと妙案が浮かんで、水樹は簡単に身支度を整えると、最低限の荷物だけ持って寮を出た。 向かった先は、叔父の墓。 初めての発情期を迎えた水樹を犯し、そのうなじを噛み、龍樹に大怪我を負わせた挙句自害した男の墓だ。 ─── 「…久し振りだね誠司おじさん、小学校卒業する時以来かな?」 からんと柄杓が心地いい音を立てた。 水樹は作法も何もなく、手を合わせることもせずただそこにしゃがみ込んで墓石に語りかける。 実家がある鎌倉の小さな墓地。 彼の遺骨をここに入れることすら大問題になった。それが今こうして無事にここに彼の遺骨があるのは、他でもない水樹が望んだからだった。 盆から随分経っているからか、雑草が伸び放題で、墓石も随分汚れていたが、途中で掃除用具を購入してきた水樹は丁寧に墓を掃除し、仏花と叔父の好物だった芋羊羹を供えた。 「ねぇおじさん、俺また番が出来たよ。天使みたいに綺麗で、頭も良くて…でも狡いし勝手だしほんと最低。なのに約束は守るんだよ。酷いでしょ?だからかな、嫌いになれないんだよね。」 言いながらふふっと笑った水樹は水無瀬の顔を思い浮かべた。 天使みたいに美しくて、悪魔みたいなことをする人だ。ちっとも優しくなんかないし、慈悲深くもない。 なんでそんな奴好きになっちゃったかな、という自嘲も含んだ笑みだった。 好きな人と番になって、奈美を泣かせた。佐藤を傷付けた。龍樹から安息を奪った。 何一ついいことなんかない。

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