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第42話

「…でも、おじさんは約束を守ってくれなかったよね。酷い人だけど、おじさんよりは良い人なのかも。」 こういうのなんて言うんだっけ、目糞鼻糞?五十歩百歩? 「ねぇ、どうして死んじゃったの?俺のこと運命だって、幸せにするって言ったのに。誠司おじさんじゃなきゃ俺のこと幸せに出来ないとまで言ったのに。」 大好きだった叔父。 優しかった叔父。 龍樹に大怪我を負わせたことはとても許せなかったが、幼いながらに叔父を一等大切に想っていたと思う。 恋だったのか、それとも親愛だったのかは、もう今となってはわからないけれど、きっと父が祖父が龍樹が叔父を許さなくても自分は叔父を許しただろう。 だからこそこうして1人密かに墓前に来るのだから。 「もしもあの時、俺が後避妊薬を拒否したら…生きていてくれた?幸せにしてくれた?」 微風が一つ、線香の煙を揺蕩わせた。 「…幸せってなんだろね。」 陽が傾き始めて、水樹はその場を後にした。また来るね、と言い残して。 ─── 戻った時には既に満天の星空で、そして少し肌寒かった。随分と陽が短くなったことを感じながら、門限ギリギリの校門を通ると、寮の前に、暗闇に輝く髪を見つける。 ああ、水無瀬の髪ってやっぱり金髪なのかな。 呆けていると、水無瀬も水樹に気が付いたようで、苦笑しながらこちらに歩いてきた。 「…おかえり。風邪引いちゃうよ?」 ふわり。 着ていたカーディガンを羽織らせてくれて、寒さが和らぐ。それは水無瀬の体温でほんのり温かく、優しいフェロモンが漂った。 手を引かれ部屋へ戻る最中、水無瀬はポツリポツリと優しく語りかけてくれた。 龍樹が死にそうな顔して私服のまま教室に飛び込んできて、水樹がいないと喚いたとか。 居ても立っても居られなくて実家にいるかもしれないから帰ると言い出したとか。 その内過呼吸を起こして保健室に行き、今は部屋で休んでいるらしい。 内容は重かったが、水無瀬は決して水樹を責めることなく、あくまで起きた事実を教えるだけ。あとで連絡入れておきなね、と付け加えた。 「水無瀬…幸せってなんだと思う?」 消え入りそうな声で問うと、水無瀬は少しだけ間をおいてこう答えた。 「それがわかったら誰も悩みなんて持たないんじゃないかな。」 と。

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