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第45話

その日を境に、水樹は街を徘徊するのをやめた。 今まで通り部活へ行くと、やはり最初はやり辛かったが、なんでもないふりをしていたら皆の態度も次第に戻った。 奈美とは今までより一層仲良くなったし、龍樹はどこかしっかりした気がする。 肝心の水無瀬とは、一緒にいる時間が増えた。 部活のない放課後は龍樹と過ごすことが多かったが、それがいつの間にか水無瀬に変わっていた。 必然的に龍樹と過ごす時間は減ってしまったのだが、多分それも龍樹の差し金だろう。きっと自分と水無瀬が一緒にいるのを見たくないのだ。 嘗て自分がそうだったように。 水無瀬との時間は、水樹にとって意外にも穏やかで心休まる時間だった。 無駄に発情期が誘発されることも身体を無理に要求されることもなく、番がもたらす絶大な安心感に包まれる安らかな時間だった。 なんだかんだとゆったり過ごし、季節が変わって冬になった。 冬休み前の期末試験の勉強中、水樹は思いがけない形で水無瀬の意外な事情を知ることになる。 「…ねぇ、そこ違うと思うよ」 「え、どこ?」 「ていうか、そもそも問1が違うと思うんだけど…全部違っちゃってるんじゃない?見せてごらん」 「早く言ってよ…」 「今見たんだよ」 自分の勉強もあるだろうに、こうして度々勉強を教えてくれる。 流石というべきか水無瀬に解けない問題なんてほぼ無かったし、教え方も的確にポイントを突いていて短時間で理解が出来るのもありがたかった。 水無瀬は考えごとをするときに、唇に指を当てる癖がある。集中するときは右の横髪を耳にかける癖も。 その仕草の一つ一つが優美で、何度も見ているのに毎回魅入ってしまうのだ。 「…ああ、ここだ、計算ミス。はいやり直し」 「あ、りがと…」 「水樹ちゃんとわかってるのにミスが多いんだよ、ドリルでもやったら?」 「うっさい」 こんな軽口のやりとりが、まるで番になる前の頃のようで、水樹は好きだった。 水無瀬の走り書きの計算式を見ながら一からやり直していると、珍しく水無瀬の携帯が着信した。 表示は、父、だった。

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