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第46話

水無瀬は携帯を手に持ったまま動かない。 もしかして一緒にいるから気を使っているのかな。出ていいよって言うべき?それとも席を外すべき? 水樹が考えている間に、水無瀬は小さな溜息をついて、その場で通話に応じた。 「もしもし」 少し緊張感さえ感じる、固い声。 水無瀬にしては珍しい。 「うん、元気だよ…あ、そうなの?それなら僕は冬休みに帰らない方がいいね。………そんなこと言われても、僕の顔なんて見たらまた発狂するでしょ」 発狂? 顔を見て? 水無瀬の表情を見るとその会話が冗談などではないことがわかる。穏やかでない会話を、このまま自分が聞いていてもいいものか。 けれど意地汚いことに興味もあって、水樹はその場から動くことができなかった。 「わかったよ…病院に戻るのはいつなの?あー待ってメモ…うん、うん、じゃあその日の午前に帰るよ。それならすぐ病院行けるでしょ。…いい、いらない。いいってば。そのお金でお母さんに何か買ってあげなよ」 勉強してるから。 そう付け加えて、水無瀬は通話を切ってしまった。 ふぅ、と疲れたような表情を見せる水無瀬は、見たことのない憂いを帯びた瞳をしている。薄い色の長い睫毛が影を落とす姿は痛ましい。 水樹が何も言えずにじっと顔を見つめていると、視線に気がついた水無瀬が曖昧に微笑んだ。 「何か、聞きたそうだね」 聞いてもいいなら、聞きたいことなんて山ほどあった。 しかし何よりまず聞かなければならないことは、わかっていた。 「俺、今の電話聞いちゃってよかったの?」 「いいよ。君にはいつか知られるだろうからね」 肩を竦める仕種も、声の調子もいつもの水無瀬だ。ただ瞳だけが少し暗い。 ガラス玉のようなその瞳はいつもどこか読み取りづらいのだが、その時ばかりは少しだけ泣きそうに見えた。 「病院って、ご家族の誰か…お身体悪いの?」 「母がね、もう何年も入退院してる」 「そう、なんだ」 水樹の家族は皆健在だ。 父母どころか祖父母まで元気で動き回っている。家族の誰かが、ましてや祖父母ではなく母が身体を壊すなんて考えたこともない。 ふと、今の電話内容と今の答えが繋がった。

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