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第48話

「…そんなに見られたらやり難いよ」 水樹はハッとして慌てて視線を逸らした。目の前の水無瀬は苦笑している。 期末試験は2日後に迫っていて、今日も水無瀬は丁寧に水樹の勉強を見てくれていた。 にも関わらず、不躾に眺めて邪魔までしてしまったようだ。 「ごめん、あの」 「まぁいいけどね。気になるんでしょ、この前の話」 ズバリ言い当てられて、水樹は小さくなった。思った通りの反応だったのか、水無瀬はくつくつと楽しそうに笑った。 「…何が聞きたいの?教えてあげるよ、聞いても面白くないだろうけど」 水無瀬は教科書から目を離さずに言った。そして再びノートにペンを走らせる。教えてあげるよと言う割に、話をする気はあまりなさそうだ 「…その、いつから」 「さぁ?物心ついた頃にはもうそんな感じだったよ」 「お父さんは、そのこと」 「知ってるよ、だからああやってお母さん帰ってくるよーって電話して来たんだし」 「お父さんは助けてくれなかったの?」 「助けって何?」 「え?」 思わず水樹が聞き返した。水無瀬はきょとんとしている。本当にわからないようだった。 「何って…例えばお父さんが育児をしてお母さんが働くとか…」 「母は心に病を持ったΩだよ、どこに家族3人養える働き口があるの?」 「…最悪、離婚して親権を」 「ないない。父は母が一番大事。母は僕が一番大事。祖父母は他界。さぁどうする?」 「待って、母は僕が一番大事って、おかしいじゃん。じゃあなんで」 「僕がレイプ相手の子だからでしょ」 さらり。 余りに簡単に、その事実は告げられた。それこそ、危うく聞き逃してしまいそうなほど。 こんな話でも、水無瀬の表情は変わらない。視線も教科書から外さない。ペンも動いたまま。 「…水樹、この前僕に聞いたよね」 水樹はすぐにどの話か思い出した。 水無瀬と番になって、色々な人を傷つけて、思いつめた先に行き着いた疑問。 『…子供を、産んでたら、幸せだったのかなぁ』 あの質問を、この人は一体どんな気持ちで聞いていたのだろう。 「レイプ相手の子を育てようとした結果が、僕だよ」 海外旅行中に発情期になった水無瀬の母は、現地の見知らぬαに犯され噛まれ、愛した男との間に子どもを望めなくなったのだという。 どうしても子どもが欲しかった2人は、腹に宿った命を2人の子として育てようとして、そして最初で最後の唯一の子、『唯』と名付けたそうだ。 そして生まれた子どもは、奇しくもレイプ相手にそっくりだった。黒髪黒目の夫婦に、金髪碧眼の赤子。 水無瀬の母親は、不義理を疑われなじられ続けたらしい。

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