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第49話
「やばい…やばいよ…水樹が数学で90点取るなんて…!天変地異くるよ…!」
「気持ちはわかるけどすごい失礼」
「そして私の36点…!」
「そっちのがやばいよ」
水無瀬のおかげで過去最高のテストの出来栄えだったというのに、ちっとも晴れやかな気持ちにならない。
それは当然、その水無瀬のことで頭を悩ませているからだった。
冬休み前の期末試験を乗り越えれば、世間のクリスマスムードに乗り込むことができる。
高校1年生、皆浮き足立っていた。
水樹も本来そういったイベントやお祭り騒ぎが大好きで、去年なんて奈美と2人で有名な大きなツリーを見に行ったりして。実際はツリーより普段見ない外国風の食べ物ばかりだったけれど。
首輪付きが2人で連んでいるものだから、変なナンパがよく釣れた。
今年も、奈美と行くことになりそうだ。
そりゃあ水無瀬と行けたら嬉しい。いくらひどい目にあわされたと言っても、水無瀬が好きなことに変わりはなかった。自分でもバカだと思う。
けれど不思議なことに、水無瀬は前より優しくなったと思う。
あの、叔父の墓参りに水樹がふらっと消えた時からだ。そして水無瀬の母親のことを聞いてから、尚更。
(わっかんないなー…)
哀れに思ったのか、それとも母親と重なったのか。しかし母親と重ねるには状況が違いすぎるし、そんなマザコンみたいなアホな真似をあの水無瀬がするとも思えない。
とすると、本当にただ哀れに思っただけかもしれない。それはそれで癪に触る。誰のせいで病んでたと思ってるんだ。
クラスメイトたちは早くもクリスマスの予定に忙しそうで、その姿を見てふと思い出す。
まだ叔父も健在だった頃、龍樹も両親も祖父母もみんな一緒に大きなツリーを飾った思い出を。
水無瀬に、そういう思い出はあるのだろうか。
水樹は返却された答案用紙を見た。
(誘って、みようか)
「いいよ、いつ行くの?」
「えっ」
素っ頓狂な声をあげた水樹に、水無瀬は苦笑した。自分から誘ってきたくせに、と笑う彼を、しげしげと見つめてしまう。
絶対断られると思ったのに。
水樹はあわてて視線を逸らした。
「あ、えっと23日とかどう?休みだし」
「うん、いいよ」
「龍樹、誘う?暇してるだろうし」
「僕は別にいいけど、いいの?」
「え?」
思わず聞き返すと、水無瀬はちょっと首を傾げた。水無瀬がたまにやるこういう子どものようなあどけない仕草が結構好きだったりする。
「デートのつもりなのかと思ったから」
クリスマス。イルミネーション。
相手は好きな人。肝心の水無瀬には好かれていないけど。
真っ赤になった水樹の頭を、ぽんぽん叩いてくる水無瀬の笑顔が眩しかった。
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