50 / 226

第50話

23日当日。 鏡で何度もおかしなところがないかチェックして、何度も鞄の中を確認し、しまいには出がけに鍵をきちんと閉めたかまで何度も確認して。 約束の20分前に、水樹はそこにいた。 (アホだ…) 寮の真ん前で待ち合わせなのに。 どうして水無瀬のことになるとこうもアホな行動をしてしまうのか。 約束の5分前に、水無瀬は寮から出て来た。 「早いね、いつから待ってたの?」 鼻赤くなってるよ。 とんとんと自分の鼻を指しながら言った水無瀬は、常より頬が赤くて、真っ白い肌に良く映えて綺麗だった。 平静を装ったつもりだったのに、そんなところで随分前から待っていたことがバレてしまうなんて。 水樹は気恥ずかしくて、マフラーに顔を埋めた。 当然というか、12月23日、世間は祝日。人は酔いそうなほどに溢れている。一際目立つ水無瀬だから、逸れる心配はないかな、と思っていたのだけど。 「水樹ちっちゃいから逸れそう。」 はい、と差し出された手を握るだけで、どんなに勇気が必要だったか、この男には一生知られたくない。あと、いうほど小さくない。 そういう文句も言えないほど緊張していた。 「あったかい物飲みたいな、寒い。」 「俺なんか買ってこようか?そこ座ってなよ。」 極度の冷え性で、真夏でも手が冷たい水無瀬のことだ。この寒さはかなり堪えるに違いない。 だというのに、水無瀬は手袋もしていないものだから、指先はかじかんでいるだろう。 水樹はちょうど空いたベンチを指差し、自分は行列している出店に向かう。ホットワインやらビールやらが主流なので水樹たちには選ぶ幅が狭かったが、幸い売っていたココアと、カイロも一緒に購入した。 そして戻ってくると。 ベンチに腰掛けた水無瀬が、遠い目をしながらぼうっと巨大なツリーを眺めていて。 ツリーのイルミネーションはチカチカと人工的なものなのに、その光を受ける水無瀬はキラキラと輝かしい。それはごく自然に水無瀬の周りに光が集まっているようで、まるでそこに存在していることそのものが奇跡のようで。 水樹は声をかけることを躊躇した。 その場に立ち尽くしていると、水無瀬の方が先に水樹に気が付いて、ニコッと笑って手を振ってくれた。 「ありがと」 「ココアでよかった?」 「うん、好き」 「だろうね」 水樹が手渡したココアを両手で受け取って指先を温め、ふーふーと息を吹きかける水無瀬は、普段と違って少し幼く見えた。

ともだちにシェアしよう!