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第51話
「綺麗だね、何年ぶりだろう」
そう呟く水無瀬の方が、綺麗だ。
水樹はツリーを見上げる水無瀬から目を離すことが出来ず、返事も漫ろにココアを飲んで誤魔化した。
甘くて脳にガツンと刺激が来る。
「去年は、友達と来たんだ」
「そうなんだ、僕10年ぶりかなぁ…」
その答えに、水樹はそっと水無瀬を見た。10年ぶりということは1人で見に行ったとは考えにくい。当時はまだ6歳かそこらだろう。
父親と、だろうか。
聞きたい、けど聞けるわけもない。
悶々と考え込んでいると、水無瀬はポツリと語ってくれた。
「1回だけね、お母さんが連れて行ってくれたんだよね。僕12月生まれだから、誕生日プレゼントって。こんな立派なのじゃなかったんだ。駅前の小さいショッピングセンター。その日は帰りにケーキも買ってくれて…懐かしいな、すごい嬉しかった」
水無瀬の表情は明るい。
そういえば水無瀬は結構よくしゃべるが、こうして自分のことを語って聞かせてくれたことはほとんどなかった。
だからだ。
何年も一緒にいるのに、水無瀬のことをなにも知らないのは。
「…水無瀬は、甘いもの以外でなにが好きなの?」
「え?どうしたの急に」
「いいから」
「うーんなんだろ、基本的に食べられれば何でもいいからな…」
「は?嘘でしょいつも俺の弁当に文句つける癖に」
「うん、薄味だよね」
「ほら!」
「あははっ」
水樹は瞠目した。
水無瀬が声をあげて楽しそうに笑うのは、実はすごくすごく珍しい。いつも柔和な美しい微笑みをたたえてはいるけれど、それは所詮微笑みなのだ。
楽しんでくれているなら、嬉しい。
水樹は胸の内がほっこり温かくなって、自然と笑みを浮かべていた。
「そうだなぁ、カレーとか?ああ、シチュー食べたいなぁ、寒いし」
「俺おでん食べたい」
「いいね、僕卵好き」
「大根かな」
「あと、はんぺん?」
「ツミレも外せないなー」
「まさかイワシ?水樹、ほんとに味覚じじいだよね」
「うるさい」
カレーとかシチューが好き。
ハヤシライスとかも好きなのかな。
おでんは卵とはんぺん。
なるほどなるほど、と心の中で復唱。
手の中のココアが無くなるまで、大きなツリーの下、他愛のない問答は続いた。
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