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第56話

黙ってしまった水樹に、水無瀬は溜息を一つ。 「まぁ、あんな形で番にした僕になんか頼りたくないか。」 その呟きを聞いた水樹は、頭から熱湯を被ったように全身が熱くなった。 「頼って、よかったの?」 面倒じゃないの。 発情期は1週間もあるのに。 学校休めないって言ってたじゃん。 俺のことなんて好きでもなんでもないくせに。龍樹じゃないのに。 巡る思考回路は真っ黒く染まる。 龍樹への嫉妬。 そんな自分への嫌悪。 水無瀬のことがわからない不安。 それらを全て飲み込んで広がっていくのは、切望。 「…馬鹿だね、僕らは番だよ?」 伸ばした両腕は力強く受け止められて、水無瀬の冷たい両手が頬を包み、青い瞳の中に今にも泣きそうな自分を見た。 噛み付くような口付けは甘く、ほんの少ししょっぱくて、微かに血の味がした。 どちらのものかわからない唾液を飲み込むと、身体の熱は一層増す。 普段からは考えられないほどの荒々しさで性急に衣服を乱されると、冬の冷たい外気に晒された皮膚が温もりを求めて震えて、そして水無瀬の肌に触れて歓喜に泣いた。 「…もっと…っ!」 もっと触れて。 もっと求めて。 もっと満たして。 もっと愛して。 貪欲に欲しているのは、水無瀬の精なのか体温なのか、それとも心なのか。 シーツを掴んで快楽に耐えるものの、跳ね上がる身体は抑えられない。自分のものとは思えない甘い喘ぎに、水無瀬が僅かに微笑んだ。 持ち上がった唇の端にある歪んだ傷。 それを舐めると、口付けへの合図。激しい愛撫の始まりを告げるピストルとなる。 「水無瀬っ…あ、水無瀬、みな…あ、ああっ!ん、く…っ」 壊れたレコードのように、断続的に彼の名を呼ぶことしかできず。 けれど必死に呼びかける度に優しく額を撫でてキスしてくれるから、まるで本当に愛されているような気さえしてしまって。 冷たい指が、温かい唇が何処かに触れる度に少しずつ少しずつ湧き上がってくるもの。 それは、間違いなく優越感だった。 「…っ、水樹…」 性欲などという言葉から対極にいるような、清らかな美貌を歪ませて求めているのは、自分。 今この瞬間は、確かに自分が水無瀬に求められている、と。 「早く…きて、して…っ!」 脚を開いて、濡れて蠢く秘口を見せつける自分のいやらしさも、彼が求めてくれるのなら喜んで曝け出そう。 入り口に触れた熱を、水樹は恍惚として迎え入れた。

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