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第57話

火傷しそうだ。 繋がっているのは一箇所だけなのに、水無瀬が触れる場所がどこもかしこも熱くて溶けてしまいそう。 腕を伸ばして抱擁を強請る。 水無瀬は拒むことなく、快楽に打ち震える水樹の身体をそっと抱き締めて、優しく、それでいて激情を込めたキスを落とした。血の味はもうしない。あるのは互いの唾液の甘さだ。 水無瀬はまるでそうするのが当たり前のように、水樹のうなじを甘噛みした。 全身で水無瀬の肌を感じて、いっそこのまま水無瀬の一部になってしまいたかった。 緩やかに始まったピストンが激しくなるのに、時間は要らなかった。 「あ、ああん、んっ!んあっ…」 灼熱の杭に貫かれて奥底まで暴かれて、何度目かの絶頂を迎えた時。水無瀬の肩越し、すっかり暗くなった窓の外にちらつく雪を目の端で捉えた。 その瞬間、昨夜の思い出が過ぎる。 クリスマスツリーを見上げて、光を受けて輝いていた。屈託無く笑って母との思い出を語ってくれた。 ポケットの中で、カイロと一緒に手を繋いだ。 (…そっか、今日クリスマスイヴだった。) 聖夜に舞い降りた手負いの天使の、なんと美しいことか。 「佐藤先輩だっけ?マスクに冷えピタ半纏姿で僕の教室に来るなり、橘 龍樹はどうした!って怒鳴るんだもん。行ったら物凄い勢いで掴みかかるし。クラスメイトの方が慌ててたよ。」 激しい情事の名残を色濃く残した水無瀬は、ミネラルウォーターの入ったペットボトルを弄びながら事の顛末を教えてくれた。 「なんであんなに弱ってる水樹を独りにしてるんだ、兄弟なんだろうって。龍樹すっかり萎縮しちゃってたから助けに行ったら、なんでだろうね?匂いで気付いたのかな?お前が番かって殴られた。」 まるで気にしていない様子で、水無瀬は淡々と語る。 度重なる口付けで唾液まみれになってしまった唇の端にある傷を丁寧に洗い、簡単に手当を済ませると、小さな絆創膏は傷そのものよりも水無瀬の非の打ち所がない造形美を損ねた。 「龍樹もショック受けてたよ、なんで教えてくれなかったんだろうって。」 そりゃ、龍樹は訳がわからないだろう。終業式が終わったら一緒に帰省する予定もあったのに。 発情期になったから帰れないと一言入れるだけでよかったのに、それすらしなかったのだから。 気不味さに俯いてしまった水樹を見かねてか、水無瀬は苦笑してクシャッと頭を撫でてくれた。 龍樹は何も悪くない。 最初から、何一つ悪くない。 水樹は涙を堪えながら龍樹に連絡を取ろうとスマホを手にすると、メッセージが一つ。それは佐藤からだった。 『余計なことをしたかもしれない。済まない。どうしても我慢ができなかった。』 それを見て、堪えた涙はあっさりと溢れた。

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