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第63話
橘家の朝食は、白米に旬の野菜が入った味噌汁。焼き魚に簡単な小鉢が2〜3種類が基本で、食後には温かいお茶が出てきた。
昼食は外食が多かった気がする。
夕食は、この時期は鍋が多かった。
ある程度水樹と龍樹が成長してからは1人用の土鍋が人数分出てきたものだ。
服は龍樹と共用のせいもあって、たくさんあった。
広い庭には池と鹿威しがあるし、春になると梅の花が咲き、秋になると金木犀が香る。
檜の風呂は、こどもの頃龍樹と叔父の3人で入ってもまだまだ余裕があった。
「じゃあ、また…明後日かな?明々後日かな?」
「うん…気をつけて。」
「ありがとう。」
そう言って少ない荷物を抱えて寮を去った水無瀬の後ろ姿を見ながら、水樹はぼうっとその場に立ち尽くした。
あれから、水無瀬は特に変わりない。
いつも通り柔和な笑顔をたたえた暴君だった。味がしないだの甘いものが欲しいだの。
それでも、絶対に出されたものを残すことはしなかった。
数日前の元旦、おせちにかこつけてわざと大量に作って見せたら、作りすぎじゃない?と苦笑いして、限界まで食べて具合悪そうにしていた。しかも翌日には平らげた。
おせちなんだからすぐには腐らない物ばかりなのに。
そう言うと、水無瀬は大真面目にこう答えた。
「お坊ちゃんだね、傷んだ食べ物で下したお腹がどんなに痛いか知らないでしょ?」
だいたいミネラルウォーターが冷蔵庫に常備してあるなんて本当に信じられないよ、水道水で十分じゃないと懇々と節約術を叩きつけられてしまったのだった。
そう言いながらも水無瀬はよく冷蔵庫から勝手に出したミネラルウォーターを飲むのだけど。
(…お金がないって、想像できないな。)
裕福な家庭に育った自覚はある。
湯呑み一つで何万とする作品を作り上げる祖父に、祖父の作品を含め伝統芸の食器を国内外に売る父。
家は大きいし別荘もあるし、車は外国の高級車が2台ある。
当然、傷んだ食べ物でお腹を壊したことなどないし、水道水を飲む習慣もなかった。
(…金目当てって、言ってた。)
確かに、水樹と結婚すればその多大な財産を受け継ぐだろう。龍樹もいるし、その全てではないにしろ、厳しい生活をしてきた水無瀬には天国のような生活ができるとは思う。
番にさえしてしまえば、水樹はもう逃げられない。水無瀬自身が死んだりしない限り、ずっと水無瀬のものだ。
龍樹がΩだったら、無理に番にしなくても済んだ。龍樹を愛しているから、自然とそうなることができたのに。
そういうことだろう。
「…弟の代わりどころか、金目当てとか。」
ズキンと傷んだ胸をギュッと抑えた。
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