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第91話

水無瀬は今回の実力テストでも首位を落とさなかった。 嬉しそうに結果を見せてくる水無瀬はまるで満点のテストを自慢する子供のようで、水樹は思わず良かったね頑張ったね、と彼を子供扱いしてしまったのだった。 そんな穏やかなテスト明け、水樹も無事に追試組と一緒に実力テストを突破して5月の大型連休に入ると、数日水無瀬の顔を見なくなる。 そこでふと思い至ってしまったのだ。 「あいつ、なんであんなに怒ってたんだ?」 先の発情期、叔父の夢を見て魘された水樹を起こしてくれた彼は、何かに確かに怒っていた。それがあの雑なセックスに発展するきっかけだったのは間違いない。 誕生日のお祝いで感動してすっかり忘れてしまっていたが、そのあたりちゃんとしておかないといけなかったはずだ。 水無瀬のバカ、適当に誤魔化しやがって。どうせそうやって溜め込んでどっかで爆発するんだろ。 俺のバカ、ゼリーなんかで簡単に誤魔化されて。水無瀬のちょっとした優しさと微笑みに耐性をつけろ。 1人で喧嘩しても仕方ない。阿呆らしいだけだ。水樹はバタンと後ろにあったベッドに倒れこんだ。 なんの音もしない。 さっきまで心地良かったこの生活音だけの空間が、もう息苦しい。 無表情に静かな怒りを滲ませて雑な愛撫をする水無瀬は、それでいてどこか痛みを伴う表情をしていた。 雑な性行為に対する嫌悪感だったのかもしれない。それをさせたのは他でもない水樹なのだ。例え身に覚えがないとはいえ。 「発情期でさえなければマシだったんだろうけどなぁ。」 仮定の話は嫌いだ。 アホらしくって時間の無駄。 水樹はスマホを手に取り、水無瀬のアドレスを呼び出して一つメールを送った。 『中間テストの勉強進んでる?もし余裕があったらまた休み明けにでも数学見て欲しいんだけど。』 我ながらありきたりな口実だが、変に作り込んでも疑われるのがオチだ。こういう時はストレートに誘ってストレートに聞くのが一番。 スマホがピロンと軽い音を立てる。水無瀬が早速返信をくれたらしい。 いいよ、と、顔文字一つ。 水無瀬のメールは意外と賑やかだ。普段あまりスマホを触る姿を見ないからそう思ったのだが、そもそも持ち歩いていないらしい。 格安だからWi-Fiがないとダメなんだよね、と言っていたけれど、携帯の意味を考えて欲しいと思ったのだった。 にやぁ、と頬が緩んだ気がして慌てて引き締める。 勉強を教わる口実を作ったんじゃない。あの時の怒りの真相を聞く口実だ。

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