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第95話

大型連休が明けてから気温が上がるのはあっという間だった。鬱陶しい雨の多い季節を超えて、新緑が見事な夏。 グラスいっぱいの氷に冷えた水。 うるさいほどの蝉の声。 燦々と降り注ぐ、肌を焼くほどの太陽光。 全開の窓から入るのは、なけなしの生温い風。 部屋に入るなり手渡された、うちわ。 「つーか、冷房入れようよ!死ぬよ!」 水無瀬の部屋を訪れて30分。 早くも限界を超えた水樹は怒声混じりに立ち上がると、即刻冷房を入れて窓を閉めた。肌にまとわりつく湿気が心底気持ち悪い。今すぐシャワーを浴びたい気分だった。 「堪え性ないなぁ。大体服装が暑そうだよ、そりゃ耐えられないよ。」 「いやいやいやいや、君は起きてからずっとここにいるだろうけど、俺は部屋からここに来てるから!外出るから!そんな格好で外出られないから!」 「そう?売店くらいならこのまま行くよ僕。」 「ちょっとやめてあげてよ!皆の天使様像を崩さないであげてよ!」 「この前知らない人に『天使の御御足…』って拝まれたよ、拝観料貰えばよかったなぁ。」 「それ絶対…いや何でもない…」 あまりにあっけらかんとそんなことを言うものだから気が抜けてしまって、水樹は大きなため息をついてから水を仰いだ。 氷で冷やされたそれは少しキンとするほどに冷え切っている。茹で蛸になった全身からほんの少し熱が逃げていった。 ちらりとその『天使の御御足』を見る。 純粋な黄色人種では成し得ない真っ白い脚は、優雅な曲線を描く白鳥の美しい頸のよう。量の少ない体毛が薄い色をしているせいで無毛に見えるその脚は、触れるときめが細かく吸い付くような肌触りで、ほんのり温かく柔らかい。 誰もが切望するその長い脚を惜しげもなく晒すのは他でもない。 暑いからだ。 1サイズどころか2サイズは大きそうなタンクトップにまるで陸上のユニフォームかと思うほどに短いボトム。脚どころか最低限しか隠していないようなその格好でそこらへんをウロウロしているというのだから、水無瀬はもう少し自分の容姿に自覚を持った方がいいと思う。 いくら水無瀬がαでも、いつか誰かが変な気を起こしそうだ。 「…てか、それ、まさかパンツじゃ…」 「見る?」 「えっ…」 「あはははっ!心配しなくてもちゃんとパンツも履いてるよ!もー可愛いんだから!」 稀に見る大笑いとともに水樹の頭を撫でた水無瀬は、涼しくなり始めた部屋が寒く感じたのかカーディガンを羽織った。 おちょくられた。 水樹はわなわなと震える拳を抑え、冷房の設定温度を上げる。すると冷房はすぐに反応してその動きを緩めた。 夏休み前、最後の日曜日のことだった。

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