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第100話
「その叔父さんって、一緒に暮らしてたの?」
水無瀬の方から叔父について聞かれたのは初めてのことだった。
水樹は驚いて少し両目を瞬かせる。そしてゆっくりと口を開いた。
「うん。俺が生まれた時、叔父さんはまだ中学生だったし、高校も大学も実家暮らししてたからね。」
教育系の大学だったことは知っているが、具体的にどこの大学で何を勉強していたのかもわからない。そう思えば、叔父のことは知らないことも多い。
好きな食べ物嫌いな食べ物、好きなスポーツ。あとは、なんだっけ?
あんなに大好きだった叔父の腕の強さも、背中の広さもひどく曖昧だ。
水樹は少し寂しくなって、周りから見えないように水無瀬の手をそっと握った。その姿に水無瀬が何を感じたのかはわからない。
ただ常よりも少しだけ低い声で、こう聞かれた。
「…会いたい?」
不機嫌さを感じるその少し低い声に、少しの違和感を覚えたけれど。水樹は特に気にすることなくこう答えた。
「会えるなら…会いたい。」
水無瀬は握った手を優しく外し、その手で水樹の頭を撫で回した。やめてよ、という弱い抵抗を笑った水無瀬はサラサラと髪を梳く。
その姿はいつも通りだった。
やはり気のせいかとホッとして、優しい手を恍惚と受入れた。
いつの間にか順番が来て、2人でたこ焼きを1パック買った。熱々の出来立てで、湯気の立つそれを口に入れてははふはふと冷ます。
水無瀬が急に口に突っ込んで来たりしたものだから、危うく火傷するところだった。
次に買った焼きそばを食べながら綿あめの列に並び、綿あめをかじる水無瀬が妙に愛嬌があったのでスマホで写真を撮ったら怒られた。
そして初めてだというりんご飴に舌鼓を打ち、忘れてた!と大声を上げて急いで並んだかき氷。
ブルーハワイってなんか身体に悪そうで美味しそう、とか言う水無瀬の横顔が生き生きしていて、誘ってよかったなぁ、と思いながらかき氷を今度は二つ注文した。
ブルーハワイと宇治金時。
こめかみがキンキンと悲鳴をあげるのを楽しみながらベンチで並んで食べたかき氷。近所のおじさんが安い材料で機械任せに作ったかき氷なのに、まるで老舗のかき氷のように美味しかった。
そろそろ花火が上がる時間かと溶けかかったかき氷を口に運びながら思う。
叔父と観た花火を、今度は水無瀬と観る。なんだか変な気分だった。
時間を確認するためにスマホを見ると、父から母から、着信履歴が連なっていた。
何事かと掛け直す。
母から告げられたのは、龍樹がまだ帰ってこない、だった。
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