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第102話
一瞬、水樹は言葉に詰まった。
詰まってはいけなかったことに気がついたのはすぐだったけれど、後の祭り。
水無瀬は苦々しく微笑み、続けてもう一つ。
「…叔父さんと僕なら、どっちの手を取るの?」
まるで血を吐くようなその問いをさせてしまったことを、水樹は激しく後悔した。
思い出すのは、バレンタインのあの日。水無瀬が好きだと伝えてくれて、そしてなにより切望するものを教えてくれた。
『この人だけは、何があっても助けてくれるって、僕を見捨てたりしないって…』
あれは、間違いなく水無瀬の本心だ。そしてそれを、水樹も受け入れた。受け入れたつもりだった。
そう、つもりでしかなかった。
水無瀬はそれに気がついていて、そしてずっと不安に思っていたのだろう。それを押し殺していたのだろう。
もちろん水無瀬を助けるよ、水無瀬の手を取るよと言葉にするのは簡単だ。けれどそれを信じてくれるとは思えなかった。
水無瀬の表情は、既に期待を失っていたから。
「やっぱり、君は僕の欲しいものをくれないし、僕は君を幸せにはしてあげられない。」
その時奇しくも、花火が始まった。
泣き笑いに歪んだ水無瀬の顔を、夜空に散る火花が照らしてより儚く見せる。こんな状況だというのに、それは息を呑むほどに美しい光景だった。
「僕ね、龍樹が嫌い。」
花火の音にも負けないその声は凛としてよく通り、水樹の鼓膜を突き破って心臓に刺さる。
「裕福な家にαで生まれて、君っていう最大の理解者がいて…それなのに龍樹って独りみたいな顔してる。恵まれてることに気が付いてないよね。」
天上の美貌と極上の声で吐き出す毒の威力は、水樹から思考回路を奪うには十分すぎる力を持っていた。
だから僕は君を幸せには出来ないよ、と水無瀬は続けた。だって君の大事な龍樹を、僕は大事に出来ないもの、と。
「じゃあ…じゃあなんで龍樹と、」
「付き合ってたかって?簡単だよ。君を手に入れるため。それに…」
口籠る水無瀬は珍しい。
先を促すかのように、そして水無瀬の話が佳境に入っていくのを煽るように、花火は二連三連と大きく派手になっていった。
「それに龍樹は、僕のことをそう言う意味で好きだったわけじゃない。本人も気が付いてないだろうけどね。…君を手に入れるために、憧れと恋愛を混濁させていた龍樹を利用したんだよ。」
そのあとの事を水樹はもはや覚えていない。どうやって家に帰ったのか、水無瀬はいつ帰って行ったのか、水無瀬が帰るまでどうしていたのか。
ただ脳裏にこびりついて離れないのは、水無瀬の諦観と悲哀、そして自嘲の微笑み。
そしていつ言ったかも定かではないこの言葉。
「大好きな叔父さんなら、君も龍樹も纏めて幸せに出来たのかもね。」
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