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第103話

かんかん照りの日差しはいっそ凶悪だ。しっかりと日焼け止めを塗ってきたものの、きっと焼け石に水だろう。 額から流れ落ちる汗もそのままに、墓石の前に立った水樹はそっとしゃがみこんで語りかけた。 「や、また来ちゃった。命日だしね。」 待ってたよ、と、叔父が言ってくれた気がした。 バシャっと豪快に水をかけてやると、持参したブラシで簡単に掃除を済ませた。近所の有名な和菓子屋の芋羊羹は、叔父が生きていた頃よく一緒に買いに行った。 花はごく普通の仏花だけれど、きっと叔父は喜んでくれるだろう。 叔父は水樹が渡したものをなんでも喜んでくれた。道端で拾った綺麗な石も、セミの抜け殻も、ダンゴムシなんかも渡したかもしれない。 水樹は懐かしい記憶に1人でふふっと笑ってしまった。 「ねー叔父さん、俺水無瀬と両想いだったんだよ。びっくりだよね、あんな酷いことしといて好きとか…でとそれ以上に、あんなクズをこんなに好きになった自分にびっくりだよ。」 じりじりと肌を焼く日差しの中、水樹は独り喋り続けた。 水無瀬の家族のこと。クリスマスにイルミネーションを見に行ったこと。バレンタインに友達とガトーショコラを手作りしたこと。そしてバレンタインの日に告白されたこと。 この前の夏祭りのこと。 「…ほんと、酷いよね。幼気な龍樹を踏み躙るみたいな…まぁ、恋と憧れの区別がつかないのもどうかと思うけどさ。それにしたって酷いよね。でも、」 続けようとして、水樹は少し口籠もった。この先を口にするのは憚られる。けれど、ここには誰も来やしない。墓石の下に眠る叔父だけだ。 水樹は再び口を開いた。 「でもね、俺水無瀬の言い分もわかる…水無瀬からしたら、龍樹って本当に恵まれてる。水無瀬が欲しいものをみんな持ってる。」 安心して眠れる寝床。 全てを受け入れてくれる人。 生活に不安を感じない金銭事情。 どれもこれも喉から手が出るほど欲しいに違いない。 水無瀬は、龍樹が水樹のために家族と距離を置いていることも知っている。けれどその水樹は龍樹の誰よりの理解者であり、家族も龍樹を疎んでいる訳ではない。 水無瀬が貰えなかった無償の真っ当な愛を、家族は龍樹に注いでいる。 その家族と距離を置いているのは、極端な言い方をすれば龍樹の勝手な行動に過ぎない。 「だから…だからね、きっと水無瀬は龍樹が嫌いなんじゃなくて、羨ましいんじゃないかなって…だって本当に嫌いだったら、龍樹がΩだったら、なんて言わないよね。きっといつか、水無瀬が安心して誰かに寄りかかることが出来たら、今度は本当に友達になれるんじゃないかなって。」 その誰かに自分がなりたいのだけど。運命だった叔父を忘れきれず、誰より大切な龍樹と誰より好きな水無瀬の間で揺れている水樹に、水無瀬は決して寄りかかってはくれないだろう。 「…俺、やっぱり貴方以外の人とは幸せになれないのかな?」 汗ではないものが頬を伝って、水樹は顔を伏せった。 炎天下の中暫くそうしていると、ジャリ、と真後ろで誰かの靴音がして、一人分の影が伸びてきた。

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