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第111話
長い間、そうして抱き合っていたように思う。背に回った水無瀬の手が水樹の体温で温かくなってお互いの体温が溶け合ったころ、窓の外が急に暗くなり、やがて激しい雨が降り出した。
ああ夕立、とぼんやり思う。
そんな時間まで、水無瀬とこうしていたのか。激しい雨はすぐに勢いを失って、再び青空が覗いた。
「あ、虹だ。」
すると突如、水無瀬が水樹の腕の中から声を上げた。
その声につられてよくよく窓の外を見ると、うっすらとではあるが、確かに虹が架かっていた。
「小さい時、虹の麓を探して歩き回ったよ。宝物があるって言うでしょ?お母さんにあげたかったんだ。」
母親の話をする水無瀬の横顔は、いつもとどこか違って見えた。
何がと言われると難しい。ただ何となく、懐かしむようなと表現するよりはそう、まるで、愛しむかのような。
水樹の腕の中から抜け出した水無瀬は、少しだけ虹を見つめて、水樹に視線を流した。そして本当にこの世のものかと思ってしまうほどの美しい微笑みをたたえる。
「もしかしたら、あの時の虹の麓には君がいたのかもね。」
なんて気障な台詞と共に、しっとりとした唇を贈られた。
そんなわけないのに、嬉しくて嬉しくて、水樹は目を閉じてキスに応える。重なった唇は直ぐに離れ、そして直後に再び重なる。それが深く濃厚なキスに変わるのに時間はかからなかった。
「ん、っ…」
もっと、もっと欲しい。
口を開いて舌を絡めて、与えられる甘い唾液を飲み込んで、両手を伸ばして首に腕を回し、しっかりと抱きついて。
水樹の身体を片手でしっかりと受け止めた水無瀬は、キスに応えながら耳を愛撫した。
温まった指先は水樹の肌に吸い付き、さらりさらりと絶妙な力加減でそれを撫でる。
徐々に手が下へと降りてきて、ついにうなじの噛み跡にその手が触れた。
「んっ…ふ、」
びくんと跳ね上がった腰を宥めるように優しく撫でられる。水樹の唇を解放した水無瀬はそっと微笑んでうなじに顔を埋めた。
柔らかい金髪にうなじが擽られる僅かな刺激すら、声が漏れ出てしまいそうになる。
ぎゅっと水無瀬のタンクトップを握りしめて愛撫とも言えない柔らかな刺激に耐えていると、温かい何かが噛み跡をなぞり、水無瀬の手はシャツの中のするりと入り込んだ。
「や、ま、ちょっ…待って!」
素肌を撫でる手に驚いて思わず制止。水無瀬の肩をグッと引き剥がすと、目を瞬かせた水無瀬は直ぐに不機嫌そうに綺麗な眉を顰めた。
「…なに。」
「や、いや…だって、」
「だって?」
ボボボッとすごい勢いで顔から耳から首まで赤くなっていくのがわかる。もはや首の下まで赤いんじゃないだろうか。
こんなに赤くなっているんだから察して欲しいのに、水無瀬はまだジトッとこちらを見ている。
消え入りそうな声でやっとの思いで告げたのは、
「だって…は、恥ずかしい…無理…」
だった。
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