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第112話
逸らした顔を戻すことが出来ない。水無瀬の顔を直視なんて出来ない。
伝われ、察しろ、頼むから。
きょとんとした水無瀬がまじまじと水樹を見下ろす。そしてさらに追い討ちをかけた。
「恥ずかしいって、初めてでもないくせに。」
その言葉を聞いた瞬間、水樹は極限まで赤くなった顔にまた熱が集まる。
バッと水無瀬を見上げると、その勢いに水無瀬が一瞬後ずさった。
「初めてだよ!発情期じゃない時に、ちゃんと好きな人となんてしたことない!」
淫らなことで頭が満たされて、身体も勝手に濡れて柔らかくなっている発情期とは違う。暴力に任せた見知らぬ相手との行為とは違う。
水樹が自らの意思で、心も身体もまっさらな状態から水無瀬を受け入れる準備をする。それがどんなに、恥ずかしくて難しいことか。
水無瀬は一瞬間を置いて、そしてふんわりと微笑んだ。水無瀬らしい、天使の様な微笑み。誰もが見惚れる優美な華。
「いいね、その顔。すごくいい。泣かせたくなる。」
表情とは真逆の言葉を至極真面目なトーンで呟くから、思わず頬を痙攣らせてしまったのだけど。
水無瀬はそれを見て、ぷっと吹き出した。
「嘘だよ。大丈夫。…大切にするよ、水樹の初めて。」
両手で、大切な宝物を愛でる様に頬を包み込まれて優しくキス。安心していいよ、と言外に言われた気がして、水樹は身体から力が抜けていった。
一枚一枚ゆっくりと丁寧に服を脱がされて下着一枚になると、水無瀬は満足そうに目を細めた。水樹の細い肩を優しい手付きで撫でた水無瀬は瞼に一つキスをして、自分の服を乱雑に脱ぎ始める。
そして露わになる、真っ白な裸体。
改めて見ると、見事なものだった。
「…そんなに見られたらこっちが恥ずかしいよ。」
珍しく頬を僅かに染めて、水無瀬は苦笑した。
そんなに凝視してしまっていたことが恥ずかしくて慌てて視線を逸らしたものの、またちらりと見てしまう。
ニコリと微笑んだ水無瀬と視線がかち合い、そのまま吸い寄せられる様にキスをした。
軽く、触れるだけのキス。
すぐにまた触れ合った唇は、今度は離してもらえなかった。
「ん、ぅん…」
舌を絡めて唾液を交換して、もらった唾液を飲み込んで体内に吸収すると、水無瀬の体温が少し上がった気がした。
自分の体温が水無瀬を温めたのかと思うと、ああこれから一つになるんだとぼんやり自覚する。
身体を優しく撫でられながらキスに没頭して、息が上がってどうしようもなくなると、今度はうなじの噛み跡にキスされて、ひくんと腰が揺れた。
シーツの擦れる音が、こんなにも耳に届くなんて知らなかった。水無瀬がどこかにキスする度にリップ音がする。肌と肌が擦れ合う音まで聞こえる。
感覚が、研ぎ澄まされていた。
愛撫とも言えないほどの柔らかな刺激に身を任せていると、ぞわっと背筋を何かが這った。
「ん、や…そこ、やだ…」
水樹の平らな胸を飾る突起。
水無瀬が細く綺麗な指先でそこをくるくると撫でていた。
「ん、嫌?」
「や、ていうか…擽ったい…」
「ふぅん、そっか…」
ちょっと楽しげに告げた水無瀬は、身を捩る水樹の腰をグッと支えて固定し、そして突起をキュッと強めにつまみあげた。
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