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第116話

羞恥心は頭の片隅にあるものの、それを軽く凌駕するのは快感と喜び。 痛みも吐き気も苦痛も虚無感もない。 「ん…んっ!あ、も、イく、イくぅ…!」 快楽の度合いは、ハッキリ言って発情期の性交の方がずっと上だ。 快感に侵されて頭がバカになって、それ以外考える余裕がなくなるあの感覚には到底及ばない。 けれど、発情期の性交よりも、ずっとずっと満たされていた。 ベッドのスプリングがあげる悲鳴に合わせるように自分の甘い声が上がる。恥ずかしくて仕方がないのにどうにもならない。 楔が打ち込まれる度に、心の底から湧き出る歓喜の声。 「水樹…ん、後ろでイける?」 「や、無理、むり…っ、も、んんっ…出した、んあッ!」 そり返るほどに勃ち上がって震えている半身は、解放を求めて口をパクパクさせながら涎をこぼして喘いでいる。 水無瀬の眼前に晒されたその余りに卑猥な光景に耐えきれずにキュッと目を閉じると、水無瀬の温かい手に半身が包み込まれた。 「あ、あんっ!あ、…あーッ…」 発情期の性交とは、所詮交尾でしかないのだと知った。 セックスとは、温かく優しく、気持ちが良くて、そして幸せなものなのだと。 シャワーの水音を聞きながらベッドに横たわっていると、夢と現を行き来しているような、ほわほわとした感覚に陥った。 部屋の中は二人の衣服が散乱している。それをボーッと眺めていると、なんだかむず痒くなって、水樹はボフンと枕に沈んだ。 すると今度は枕に染み付いた水無瀬のフェロモンをダイレクトに感じて、それはそれで恥ずかしくなり、うろうろと視線を彷徨わせて、結局ベッドの隅に体育座りという間抜けな格好で落ち着いた。 (自分の部屋じゃなくてよかった…) 自分の部屋で致していたら、暫く眠れる自信がない。水樹は誰もいない部屋で、赤くなった顔をなんとかしようとシーツに顔を埋めた。 シーツからは、フェロモンは微かに香る程度で心地よかった。 「そういえばさ。」 「わー!なに、いつ出てきた!?」 「今だけど…さっき携帯鳴ってたみたいだけど気付いてた?」 「全然気付いてない…ありがと…」 携帯を見ると、着信は龍樹からだった。その後メールが入っている。食堂がまだ開いていないから夕食を作って欲しいとのことだったが、既に時刻は22時になろうとしていた。 「やば、龍樹夕飯ありつけたのかな。」 「君すっごい感じてたもんね。そりゃ気付かないよね。」 「ねぇ…デリカシーって言葉知ってる?」 「僕もお腹空いたな、豚丼でも食べるか。君も食べる?」 「聞けよ。食べるけど。」 「じゃあ作って。」 「…ん?」 「ほら早く。お腹空いた。」 龍樹には明日謝ろう。 もう少し、水無瀬と二人きりの時間を堪能させて欲しかった。 「お肉使い過ぎじゃない?」 「え?だって豚丼でしょ?」 「豚丼なんてほんの少しの豚バラに大量のもやしでカサ増しする激安満腹飯だよ。」 「違うと思う…」 夜10時過ぎにああでもないこうでもないと食べた豚丼は、これまでで1番美味しかった。

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