117 / 226

第117話

水無瀬が、優しい。 真剣に悩んでしまったのは、夏休みが明けて1週間程経った昼休みのことだった。 あの日、水無瀬と仲直りして、気持ち的には初めて水無瀬とセックスした日。 あれから、毎日顔を合わせている。 同じ学校の番同士でおかしな話かもしれないが、今までそんなことはなかった。水樹は部活があるし、そもそも普通科の水樹と特進科の水無瀬は授業数が違うからだ。 高2になって受験が見えて来た分それは顕著になっていて、放課後に会うということは減っていたのに、いつも部活の後迎えにきてくれる。 「お疲れ様、水樹。」 そう言いながらタオルを渡してくれる水無瀬の笑顔が、1日の最高のご褒美になっていた。 思い出すだけで心が洗われるような気がしてくる、蕩ける天使の微笑みだ。 部活後は一緒に帰って、時には手を繋いだりして。そのまま部屋で夕食を共にしたり。 廊下ですれ違ってもあの蕩ける微笑み。小さな歓声が其処彼処から上がっているのに本人は気付いているのだろうか。 奴のことだから、気付いていたとしても外野の声なんて聞こえないとか言いそうだ。 「だって僕が声をかけてるのも手を振ってるのも笑いかけてるのも水樹だよ、他は関係ないでしょ。自分に手を振ってくれたとか、そんなおめでたい勘違いは勝手にさせておけばいいんだよ。」 眼に浮かぶ。 水無瀬は結構、俺様だ。 「あれ水樹まだいたの?天使様がお弁当待ってるんじゃないの?」 購買でパンを買って来た奈美にせっつかれて弁当を二つ抱えて漸く教室を出て、のろのろと特進科の教室に向かう。前は制服の違うこのあたりを歩くのに緊張したものだが、それも慣れてしまった。 ガラリとドアを開けると、普通科となんら変わらない様子でワイワイしながら皆昼食を取っている。 その中に、あの輝かしい姿はない。ついでに言うと弟もいない。 ついでとか言ったら可哀想か、と思いながらキョロキョロしていると、急に上から声が降って来た。 「水無瀬なら飲み物買いに行った。」 「ひっ!ちょ、脅かすなバカ!」 ビクッ!と大袈裟に飛び上がった水樹を知ってか知らずか、ヒョイっと水樹の腕の中から飲み物を取り上げて一口飲むと、龍樹はそのままスタスタと教室の中に入って行った。 水樹たちが番になってから、一緒に食べることはなくなってしまった。 もしかして、教室で一人で食べているのだろうか。 クラスに、水無瀬以外の友だちもいるだろうと思っていた。それは思い込みと言う名の願望でしかなかったのかもしれない。 水樹が水無瀬と番になったことで、龍樹と水無瀬の仲に亀裂が生まれてしまったのは疑う余地がない。それは恋人としてだけではなく、友人としても。

ともだちにシェアしよう!