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第121話
約束の日曜日までに過ぎてしまった水無瀬の誕生日当日は、少しだけ気合の入ったお弁当を用意して、龍樹と3人で食べた。誕生日おめでとうと差し出した購買のイチゴプリンに目を輝かせる水無瀬はそれはもう眼福で、龍樹と二人で不躾に眺めてしまった。
たとえイチゴプリンと一緒にイチゴオレを飲んでいたとしても、だ。
そして迎えた日曜日。
昨日から煮込んでいる牛テールはホロホロに蕩けて、その骨と野菜から出た透き通った出汁が芳醇な香りを立てている。
プレゼントを買った日に一緒に用意したスパイスを合わせて少し煮込めば完成だ。
今日を迎えるにあたって母に教えてもらった実家で慣れ親しんだカレーだが、こんなに手がかかっているだなんて知らなかった。望めば作ってくれていた母と祖母に土下座で感謝したい。
「よし。あとはサラダとスープでいいだろ。」
クリームコーン缶で手軽にポタージュを作り、温めるだけにしておけば、サラダはすぐにできる。
ご飯はセットしてあるし、朝一で買ってきたケーキも冷蔵庫でスタンバイしている。プレゼントもバッチリだ。
「完璧。」
エプロンを脱ぎながら、水樹は一息つこうとベッドにごろんと倒れこんだ。水無瀬が来る約束の時間まであと1時間。
長い長い1時間に感じそうだと思ったけれど、案外あっという間だった。
「僕、自分が思ってたより楽しみだったみたい。学校ないのに早く起きちゃった。」
照れ臭そうに頬を掻きながら笑った水無瀬を部屋に通すと、早々に寛ぎ出した。お茶だけ出して、昼食の仕上げにかかる。
カレーの鍋を火にかけると、部屋中に食欲を刺激する香りが広がった。
サラダを作っていると、水無瀬がひょいとキッチンスペースに顔を出す。
「お腹空いた…」
小さな子どものような姿に微笑ましくなりながら、サラダの取り皿を持たせて、もう出来るからと促した。
スープにパセリを散らして彩りを添え、サラダに手作りドレッシングをかけて、ほかほかごはんにたっぷりのカレーをかける。
カレーを目の前に差し出すと、水無瀬は美味しそう、と呟いた。
それが心の底からふっと出てしまった本心からの呟きなのがわかって、嬉しい。
「さ、どうぞ。」
「ありがとう、いただきます。」
にっこり笑った水無瀬は手を合わせて、そしてカレーを一口食べると、ほわりとその表情が綻んだ。
口に合ったようだ。よかった。
水樹は心からホッとして、自分もカレーを口に運ぶ。懐かしい味がした。
「これ、何のお肉?」
「牛テール。うちはこれで出汁取ってから作ってるんだって。」
「テール…しっぽ?へぇ…」
なかなか馴染みのない部位だろう。物珍しそうに食べる水無瀬は、また一口食べてから、満面の笑顔で美味しいと言ってくれた。
サラダもスープも美味しいよと。カレーはおかわりまで。
手間のかかる料理も、喜んでもらえるなら安いものだ。水樹は食器を下げて、コーヒーとケーキ、そしてプレゼントを用意しに行った。
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