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第129話
水無瀬はその翌日から、学校を休んでいた。
丸々3日休み、休日を挟んで、漸く姿を見せたのは月曜日。
その間連絡は一切なく、水樹が送ったメールに既読もつかずの状態で、水樹は随分とやきもきさせられたのだが、姿を現した水無瀬はあまりにあっけらかんと両手を合わせた。
「あんな夜に薄着で出掛けたからかな?風邪こじらせちゃって。」
ごめんね許して、と天使に拝まれては、少しの音信不通くらい許さないわけにはいかなかった。
風邪なら言ってくれたら看病に行ったのに、と思うけれど、うつしたくなかったからと言われるのは予想できた。水樹なら、うつしたくないから呼ばない。自分が呼ばないのに相手には呼べなどとは言えなかった。
すぐに学年末テストが控えていて、水無瀬はいつになく必死に机に向かっていた。成績を落とすわけにいかない水無瀬が、テスト直前の授業を3日も休んだのは大打撃だろう。
今回ばかりは水樹も教えてくれとは言えず、テストが終わるまで2人はほとんど顔を合わせることがなかった。
張り出された成績上位者の一位のところに無事水無瀬の名前を発見して、水樹の方がホッとして。
「よかったね、俺が安心した。」
と声をかけに行ったけれど、ちょっとの苦笑いでクシャリと髪を撫でられて終わった。
何かが、変だ。
そう気がつくのに、時間はかからなかった。
一見いつも通り。
柔和な微笑みに優しい声。その声が紡ぐ言葉は少しだけ意地悪で、相変わらず砂糖まみれの生活をしている。マイブームはイチゴオレからお汁粉に移行したようだった。
けれどふとした瞬間、すっと水無瀬の瞳が暗く翳る。
あの透明な青い瞳が暗く淀んで感情を押し殺す姿は、まるで翼をもがれた天使が下界に突き落とされて絶望しているかのようで、背筋がゾッとする。
そう、背筋がゾッとするほど、美しかった。
「水無瀬…何か、あった?」
とはいえそんな暗い瞳を見ていたいはずもなく、本人に尋ねて見ても水無瀬は何もないよと首を振った。
「ねぇ龍樹、なんか水無瀬変じゃない?」
そう龍樹に尋ねてみたけれど、龍樹は首をひねるばかりだった。
気のせいなのだろうか。
いつも通りには到底見えないのだけど、何度水無瀬に尋ねても首を振るし、何度龍樹に尋ねても首をひねる。挙げ句の果てにはお前がどうかしたのかと言われる始末だった。
「特進は今進路の話でクラス中がピリピリしてる。いくら水無瀬でも、機嫌が悪いくらい不思議じゃないだろ。」
そう言われてしまったら、水樹には何も言えなかった。
そうして桜が満開の頃、高校2年生の修了式が行われ、春休みに入った。
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