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第147話

水無瀬に比べると龍樹は随分食が細い。 大量に作った肉じゃがは龍樹と水樹では残ってしまった。それでも美味かったと食べてくれて、その目が先ほどよりも力を持っていたから、ほっこりと心が温まるのだった。 肉じゃがは残っても困らない。 龍樹を浴室に押し込んで着替えを引っ張り出す。未だに実家では服も下着も共用なのだから、龍樹相手に新しいものなんて用意しない。龍樹も気にしないだろう。 「っはぁ〜…」 そうして何もかもを終えて一人になり、シャワーの音を聞きながら一息つくと、どっと疲れが押し寄せる。 今日1日で随分いろいろなことがあった。 水無瀬と喧嘩して、あのΩの先生に会って。水無瀬と仲直りして、今は龍樹と一緒にいる。 水無瀬は、恐らくもう心配ない。 進学のことやら将来のことやら、その時々で悩みは出てくるだろうが、先ほどのメッセージの様子だとまた独りで抱え込んで爆発することは減りそうだ。 進学や将来にしても、なにかしてやれることがあるはずだ。 それこそ、水樹は家に金があるから水無瀬に選ばれたのだから。 「…GWにでも、帰ろうかなぁ。」 きっと、父や祖父は相談に乗ってくれるはず。 親の金の力で解決しようという魂胆が見え見えでちっとも美しくないが、水無瀬のためになるなら自分の美徳など二の次だ。 浴室のドアが開く音がして、水樹は飲み物を用意しに立ち上がった。そのまま龍樹と交代でシャワーを浴びて、全く眠そうにしていない龍樹をベッドに引き摺り込み、一緒に横になる。 「おやすみ。」 と声を掛け合い瞳を閉じたものの、水樹もまた眠気は一向に訪れないのだった。 心配なのは、龍樹の方だ。 家族とも距離があり、友達らしい友達もいない。水無瀬とはどこかギクシャクしていて、頼みの綱である水樹にも話したくない。今度はお前が爆発する番かと頭が痛くなる。 当の本人は眠れないのかもぞもぞと動き続けている。おかげでこちらも眠れない。 うつらうつら夢と現を行き来しはじめた頃、隣で起き上がる気配がして覚醒した。 普段は布団に入ったらすぐに寝てしまう龍樹が、こんなにも寝付かないのは珍しい。とは言っても最近はこうして一緒に眠ることもなかったのだけど。 少し様子を伺っていると、温かい手が額に触れる。髪を払ってくれたようだが、少し大袈裟に驚いてしまった。 離れていった手を追いかけてそっと触れると、漸く龍樹と目が合う。 暗くてよく見えないが、爛々と輝いているその目は龍樹が少しも眠っていないことを示していた。 「眠れない?」 ぐい、と少し強引に抱き込んで、頭を胸に押し付けると、少しして遠慮がちに背に手が回ってきた。 昔から、この体勢で眠ることが多かった。龍樹が過呼吸の発作に苦しんだ時も、いつもこう。 心臓の音を聞くと、人は落ち着くものだ。 程なくして耳に届いた寝息にホッとして、水樹も目を閉じた。 そういえば、水無瀬以外の人をこうして抱きしめたのは随分久しぶりだと頭の片隅に浮かんで、それは夢の彼方へ飛んでいった。

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