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第153話
こんなのひどい。
ぐるぐるぐるぐる身体中を駆け巡る熱。水樹はついつい考えてしまういやらしいことを振り払うべく頭を振るものの、長時間我慢を重ねた身体は頬をくすぐった己の髪にさえ刺激されて腰が甘く疼いた。
その様子を見ていた水無瀬の小さな笑い声が、それはそれは満足そうで、それはそれは憎たらしい。
「辛いなら素直にやればいいのに。」
そう、水無瀬がいないわけじゃない。
むしろ目の前のソファにゆったりと座り、シャツ一枚と既にぐっしょりと濡れた下着を纏って発情している水樹の痴態を見下ろしている。時折嫌味なほど長い足を悠然と組み替える姿が様になっていて、腹立たしいことにこの状況を楽しんでいるのがよくわかる。
水無瀬が弄ぶ一本の注射器。
中身はもちろん抑制剤だ。
ただし、α用の。
水無瀬は授業を終えて水樹の部屋を訪れ、やっと抱いてもらえると期待に震える水樹の目の前でそれを自分の腕に刺してみせた。
「そうだなぁ…まずは3回回ってワン、かな?可愛くできたら触ってあげてもいいよ。」
あの時の水無瀬の笑顔は忘れない。正しく天使の顔をした悪魔だった。
画して水樹のフェロモンが効かなくなった水無瀬は、水樹の特効薬を奪い、ソファに腰掛けて、高みの見物を決め込んだ。
天使が下界を見守るように、その場から少しも動かずに水樹を見下ろしている。
そんなアホらしいことできるか、と思いつつ、水無瀬を求めて切ない主張をする後ろがトロトロと絶え間なく愛液を溢れさせて下着の色を変えていく。それを見た水無瀬がより楽しそうに嗤うから、悔しくて意固地になってしまうのだ。
「そんなに恥ずかしい?僕、その下着の方が恥ずかしいと思うけど。」
くすくすと控えめに笑いながら白い指先が指した先には、これでもかと溢れた愛液で大半の色が変わった下着を押し上げる、立ち上がった自分自身。
気がついてしまうと、それはあまりに卑猥だ。
「ほら、もたもたしてると僕寝ちゃうよ?これの副作用、ものすごい眠気なんだから。今だってかなり眠いよ?」
水無瀬は手にした注射器を見せびらかしながら言い放つ。
そんな風に言うなら、一度だけでも抱いてくれたらいいのに。
雑でも乱暴でもなんでもいいから、その精を注いでくれたらいいのに。
朝から何度も自分で慰めた後ろはぐずぐずに蕩けていて、すぐにでも受け入れられるようになっている。
抑制剤で抑え込んでいるものの、僅かに漏れるフェロモンは水樹の脳を擽って、番を目の前にして我慢を強いられることに限界を感じていた。
嘆願の思いを込めてそっと見上げると、平静そのものの青い瞳がニッコリと微笑みかけてくれた。
その優しい微笑みに、さらなる爆弾を携えて。
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