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第154話

「そんなに嫌かぁ…」 すこし困ったように顎に手を当てて考え込む水無瀬は、さながら彫刻のようだ。 していることはちっとも美しくないのに、その光景には息を呑むほど。 水樹はその形のいい唇がゆっくりと弧を描く様に、じいっと魅入っていた。 「じゃあ足でも舐めてもらおうかな?」 その唇から爆弾が投下されるとも知らずに。 「…は、え?」 「聞こえなかった?足でも舐めてもらおうかなって言ったんだよ。」 「や、やだ…」 「ええ?ワガママだなぁ。」 態とらしく驚いてみせた水無瀬は、その長い脚を組み替えた。 制服のスラックスに包まれているその脚が、真っ白で無駄な脂肪も筋肉もなく、男性であるにも関わらず優雅な曲線を描きとても美しいことを知っている。 しかしそれとこれとは、別だ。 水樹は基本的に変な趣味はない。 どうしてもというならするだろうが、それに快楽を見出せるとは思えなかった。 しかしそれでもやはり燻る熱はどうにもならなくて、やるしかないのか、と生唾を飲み込んだその時。 「じゃあ僕が舐めてあげようか。」 と、水無瀬は徐に立ち上がった。 そして水樹の身体を起こして今まで自分が腰掛けていたソファに座らせると、既に剥き出しの右脚をそっと持ち上げる。 「なん、なに…」 事態を飲み込めずに呆然としている水樹に、下からそっと微笑みかける。普段見上げるばかりの水無瀬の微笑みをこの位置から見るとまた新鮮で、ドクンと胸が高鳴った。 そして水樹がときめいたその一瞬の隙を現実に引き戻したのは、足の指を襲った生暖かい感触だった。 「ひっ!?あ、やだ、やだ水無瀬…やだっ…」 伏せられた金色の長い睫毛も、僅かに紅潮した白磁の肌も、それに映える赤い唇も、全てが最高級の造りもののように美しい。 そんな水無瀬が、膝をついて自分の足を舐めている。 赤い唇から真っ赤な舌が覗いて、ざらりと指股を這ったと同時に身体の中を駆け巡ったのは、罪悪感だった。 「やだ、そんなことしないで、だめっ…やだぁ…ッ、」 この美しい人が、自分のような性欲に逆らえない薄汚い生き物の足を舐めている。 その事実に耐えられず、水樹は涙を振りまいた。 しかしその罪悪感がもたらしたのは、苦痛でもなく嫌悪ですらなく。 紛れもない、快楽だった。 「やだ、やだっ…あ、やあッ…」 既にドロドロの下着が、さらに濡れる。前が濡れているのか後ろが濡れているのか、それすらもわからない。 水無瀬の舌はゆっくりと丁寧に水樹の足を愛撫し、指の一本一本にまで唾液を絡めてキスをした。 それはあまりにも背徳的で、目が離せなくて。 そして水無瀬が右の親指を口に含み、ジュッと強く吸い上げた時。 「ひ、ァ、うそ、やだ…やッ、ああッ!」 水樹は、その刺激だけで達してしまったのだった。 乱れた息を整えていると、ちゅ、と控えめなリップ音を立てて優しく足に口付けられて、それがまた恥ずかしい。 「気持ちよかった?」 満足げに微笑んだ水無瀬は、水樹の涙を唇で掬い上げると、額にキスを一つ落としてまた微笑んだ。

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