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第159話
「誰のこと考えてる?」
「んっ…」
ほんの少しの痛み。
水無瀬が耳殻をやんわりと食んでいた。
目敏い水無瀬には心ここに在らずだったのがすぐにバレてしまっていたようで、その青い瞳が小さく静かな怒りをたたえている。
「なんも…」
「ふぅん?」
「んあっ…や、あ…」
「ほら、素直にならないとろくなことにならないよ。」
一人だけ一糸纏わぬ産まれたままの姿を晒す水樹が何をして欲しいのかわかっているくせに、水無瀬は静かな声でそう警告する。
発情期で過敏になった身体はひくひくと小刻みに震えて水無瀬から与えられる刺激を待っているのに、水無瀬は相変わらず耳殻を舐めたり食んだりするだけで身体には触れてこない。
「龍樹ね、すごく辛そうな顔するんだよ。」
ふと、温度の低い声で水無瀬が呟いた。
「君が発情期で、僕がここに来る前。」
今みたいな、ね。
それはどこか、侮蔑の意を込めているような気さえするほど。寒気にふるりと小さく肩が震えたが、室温が下がった訳もない。
水樹はそっと水無瀬を振り返る。
すると、発情期の番を目の前にしているとは思えない、冷え切った青い瞳と視線がかち合った。
「水無瀬…?っあ!」
どうしたの、と声をかける間も無く、突然中心に触れられて、そこから電流のような快感が走り抜ける。
そのまま上下にゆるく扱かれれば、
さらなる快楽を求めて腰が浅ましく揺れてしまうのだった。
聞こえてくる水音に耳を塞ぎたくなる一方で、もっともっと触れて欲しくて、出来たら後ろの奥の奥まで犯して欲しくて堪らなくなる。
やがて水樹は白い喉を反らして高い声を上げながら、果てた。
くたりと背中を預ける相手が、どんな顔をしているのか。
そっと表情を伺うと、その目はもう冷えてなどいなかった。
「あ…」
ぞくり。
背筋に走る、快楽への期待。
食べごろの堪らない匂いを嗅ぎつけて、どう食ってやろうかと思案する獣の顔だ。
水無瀬の天使のような容貌が、この本能を剥き出しにした表情に染まる瞬間が好きだった。
「ごめん、加減出来ないかも。」
白く細い指先でしゅるりと群青のリボンタイを解く。シャツのボタンを二つ外す。
流れるようなその動きに魅入ったのも束の間、突如後ろの秘孔に突き立てられた指にまた高い声を上げて歓びを示した。
掻き回されて、いいところを擦られて、何度も何度も水無瀬の指で達した。
そして繋がってまた達して、揺さぶられて達して。
「もっ、無理、いやぁっ…!ッあ、も、イきたくな…あ、んあッ!やっ!」
泣いても縋っても、水無瀬はやめてはくれなかった。優しい微笑みで、温まった指先でそっと髪を撫でながら、水樹を揺さぶり続けた。
「うそ、こんなに締め付けて喜んでるのに。ほら、ね?」
気持ちよくて、良すぎて辛くて。
優しい微笑みに、温かい指先に、大好きな声に誤魔化されて、やっとの思いで水無瀬が満足するまで貪られた。
水無瀬との繋がりが解けたとき、すーっと引き摺られるままに眠りの世界に落ちていったのだった。
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